第811号『富士山ぐるり旅-その2』

【車窓からの富士山】

翌朝、飲みすぎた割には気持ちよく目覚めた。
温泉宿に泊まる楽しみの一つは、なんといっても朝風
呂だろう。
さっそく、地下にある岩風呂へ。
この温泉は、武田信玄公の隠し湯とも言われている秘
湯である。
ゴツゴツとした岩をくり抜いたような空間に、湯船が
ある。
少し冷たい源泉に入り、その後、沸かし湯で身体を温
める。
なんとも、気持ちが良い。

湯から上がり、8時に朝食。
夕食同様、部屋に膳を用意してくれる。
主菜は、山菜とヤマメの干物。
普段、朝食は摂らないのだが美味しくいただいた。

朝食の後、宿の周辺をぶらりと散歩してみる。
これといって、なにもない山間の景観と渓流が流れて
いるだけ。
でも、なんだか清々しい気持ちよさを感じながら30分
ほど歩いた。

宿に戻り、妻と支度をしながら帰りのルートを相談し
た。
来た道順と同じ経路で帰るのもなんだかつまらない。

そこで身延線で甲府に帰るのではなく、富士まで行き、
そこから熱海、熱海から大船を経由して帰るルートを
とることにした。
こうして、またこの宿の送迎用ロールスロイスに乗り、
下部温泉駅まで送ってもらう。
駅で、待つこと20分ほどで富士行の電車がくる。
余談だが、数年前に車を手放した(妻も僕も酒を飲む、
必然的に車での移動はどちらかが我慢しなければなら
ない、それは楽しくない)ので、こうして電車やバス
などで移動するしかない。
当初、車を持たないことは不便かなとも思ったが、む
しろ、忙しさから開放され清々した気分である。

下部温泉駅は無人駅だ。
列車に乗車し、程なく車掌が来て車内で富士駅までの
乗車券と特急券を購入する。
途中の身延駅を経由し、山間部を抜けながら、蛇行す
る大きな川(後で調べたのだが、富士川のようだ)を
右手に見ながら進む。
しばらくすると、富士川から離れ、西富士宮駅の少し
手前で忽然と巨大な富士山が現れた。
これは、ちょっと感動ものの風景である。

次の(特急が止まる)停車駅が富士宮駅。
富士宮駅に近づくと、富士山と共に巨大な鳥居と木造
の建造物が車窓から見える。
「なんだろう?」
富士駅に行く予定を変更し、この富士宮で途中下車す
ることにした。

切符は、富士駅までであるが駅員の方から、途中下車
でも切符の購入駅までは何度でも乗車下車できる(こ
の年齢まで知らなかった)という。
さて、初めての富士宮。
浮き足立つ気分で改札口を出た。

駅から繋がるペデストリアンデッキ(広場を兼ねた歩
道橋)で立ち止まり、(富士宮と言えば焼きそば!)
まずは腹ごしらえと、スマートフォンで調べる。
すると親切にどちらに行くのかと、地元の方が声を掛
けてくれた。
そして、あれこれとお店を教えてくれた。
駅からも近いという、焼きそば屋「虹屋ミミ」に行く
ことにした。

途中、お茶屋さんの店頭で地元の野菜を販売している。
立派に育った野菜の他に、お餅や漬物もある。
聞けば、周辺の農家の人たちが委託しここで販売して
いるとのこと。
つい、立派に育ったカリフラワーと餅や大根の漬物を
購入して(これから散策するというのに)しまった。

寄り道したが、お茶屋の奥さんに教えてもらった大通
りを左に曲がった路地裏の道を行くと、7,8人で満席
になりそうな焼きそば屋「虹屋ミミ」を見つけた。
店内には先客が2人、昼のピークを過ぎていたからか、
席は空いていた。

【富士宮焼きそば】

5人掛けのカウンターに座る。
カウンターの前には鉄板があり、焼きそばや、お好
み焼きを店主がその場で作ってくれる。

僕たちは、ソース焼きそばに半熟たまごのせと醤油
ベースのねぎ焼きそばを注文した。
出された焼きそばは、もちもちとした噛みごたえの
ある食感で、深みのある味わいだった。

店主は地元の方で、富士宮の焼きそばが、なぜソー
ルフードといわれるのかを説いた。

かつて、お米の獲れないこの地域で、小麦をベース
にしたうどん・ほうとう・中華麺(そして焼きそば)
を如何にして美味しく食べるかを追求した結果が「
富士宮の焼きそば」なのだと教えてくれた。
そんな、話を聴きながら「富士山世界遺産センター
は知っているか?」と聞かれた。
「知らない」と応えた。
「それなら、一度は行ってみたほうがいい」と教えて
いただいた。

地元の方のアドバイスには、素直に従ったほうがいい。
こうして、腹も満たしたところで教えてもらった「富
士山世界遺産センター」へと出発した。

旅はまだまだ、つづく。
次回、『富士山ぐるり旅-その3』です。