第827号『2019上半期映画ベスト10』

【『運び屋』のパンフレット】

月めくりの卓上カレンダーも7枚目。
あっという間に、今年も折り返しを過ぎた。
ということで、恒例となった上半期に観た映画を振り返っ
てみた。

年間100本の映画(劇場だけではなくDVDも含み、新旧あ
わせ)を観ることを目標にしている。
鑑賞後、月日・作品名・監督・俳優・評価など、簡単に記
録している。
この作業は百本ノックに似ていて、数をこなすと捕球が上
手くなるように、数多く観ていると、(自分にとって、こ
れは佳い映画だなという)匂いのようなもを嗅ぎ取れるよ
う(な気分)になる。
そんな気分で選んだ「上半期ベスト10」を発表したい。

1.『運び屋』
クリント・イーストウッド監督監督作品 2018年製作

ニューヨーク・タイムズマガジンに掲載された実話(90歳
にして、麻薬の運び屋を描いた)をベースにしたストーリ
ーを、撮影当時88歳の映画界のレジェンド、イーストウッ
ドが演じた。
始まりから終わりまで、全く破綻がない。
どのシーンも、必然性があり力身なく繋がっていく。
脚本は、『グラン・トリノ』でも組んだニック・シェンク。
まさしく、マスターピースである。
余談だが、イーストウッドとほぼ同い年の山田洋次監督(
山田監督は1931年生まれ)の、年末上映予定の50作目とな
る『男はつらいよ』が脳裏をよぎった。
齢90歳に近い、二人の巨匠。
その映画に対する情熱とパワーに驚かされる。

2.『岬の兄妹』
片山晋三監督作品 2018年製作

この作品をオススメすることに若干抵抗があった。
なにしろ、胸くそが悪くなるようなシーンがこれでもかと
出てくる。
貧困・売春・障害者・地方、といった今日的なテーマが据
えられている。
それでも、この映画を選んだのは観ていて、グワングワン
と心が揺れたからだ。
それは社会派映画という側面ではなく、兄妹を演じたふた
りの圧倒的な生きることへのエネルギーを見せつけられた
からだ。
そして、シリアスな面だけではなく笑いもあり、いい具合
にエンターテイメントにもなっている。
片山監督は、1981年生まれ。
ポン・ジュノ監督の『母なる証明』(第62回カンヌ映画祭
ある視点部門ノミネート作品)や山下敦弘監督『味園ユニ
バース』『マイ・バック・ページ』の助監督(じっくりと
映画の現場を踏んで)を経て、今作が初監督作品。
観終わった時、ふと日活ロマンポルノの傑作、田中登監督
作品『マル秘色情メス市場』を思い出した。

3.『ローマ』
アルフォンソ・キュアロン監督作品 2018年製作

『ゼロ・グラビティ』で第86回アカデミー賞監督賞に輝い
たアルフォンソ・キュアロン監督作品。
政治的混乱に揺れる1970年代メキシコを舞台に、ある中産
階級の家庭に訪れる激動の1年間を、若い家政婦の視点から
描いたものである。
キュアロン監督自らが脚本・撮影も手がけ、Netflixオリ
ジナルのヒューマンドラマとしても話題(上映する映画館
が少なくて観るのに苦労しました)になった。
今作でも第91回アカデミー賞で監督賞、撮影賞、外国語映
画賞を受賞した。
オープニングでの長回しのワンカットだけでも、一見の価
値あり。

4.『ビールストリートの恋人たち』
バリー・ジェンキンズ監督作品 2018年製作

第89回アカデミー賞作品賞受賞作『ムーンライト』のバリ
ー・ジェンキンス監督による、ジェイムズ・ボールドウィ
ンの小説を映画化。
1970年代ニューヨークのハーレムで生活しているカップル
の純愛物語が美しく描かれる。
音楽、衣装、そして映像が素晴らしい。
『ムーンライト』でも組んだブラッド・ピットが製作総指
揮を担当。
それにしても、ハリウッドでは、役者(例えばロバート・
レッドフォード、マット・デイモン、ベン・アフレック等
々)が監督になり、プロデューサーにもなることは、もは
や普通の風景である。

5.『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』
アビー・コーン/マーク・シルヴァースタイン監督作品 
2018年製作

今作の主演レネーを演じるのは、「エイミー、エイミー、
エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方」でゴ
ールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされたエイ
ミー・シューマー。
大人のためのロマンティック・コメディとしても、安心し
て楽しめる秀逸な仕上がりになっている。

6.『新聞記者』
藤井直人監督作品  2019年製作

韓国で観客動員740万人を記録した大ヒット映画「サニー
 永遠の仲間たち」(2011)では、主人公イム・ナミの
高校生時代を演じた演技派女優シム・ウンギョンと松坂
桃李がダブル主演を務める社会派サスペンス。
東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、
若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤を描き出す。
いま話題の作品であるが、普通にサスペンスエンターテ
イメントとして、楽しめる作品に仕上がっている。
それにしても、主演女優シム・ウンギョンの骨太な演技
は光っていた。

7.『ゴジラキング・オブ・モンスターズ』
マイケル・ドハティ監督作品  2019年製作

監督は『スーパーマン リターンズ』で脚本を担当した
マイケル・ドハティ。
『GODZILLA ゴジラ』『キングコング:髑髏島の巨神』に
続く、“モンスター・ヴァース”シリーズの第3弾。
ゴジラをはじめ、今作ではモスラ、ラドン、キングギド
ラが復活する。
例えれば、すきやき、てんぷら、寿司、カツ丼がいっぺ
んにテーブルに並んだような賑わいが、スクリーンから
溢れだしていた。
それにしても、キングギドラに猛襲をかけるラドンの飛
翔シーンは秀悦だった。

8.『タクシー運転手』
チャン・フン監督作品  2017年製作

1980年に韓国で起きた光州事件での、ドイツ人記者と韓
国人タクシー運転手(ソン・ガンホ)の実話をもとにし
たストーリー。
主演は『JSA』『密偵』など、韓国を代表する役者ソン・
ガンホ。
光州へ取材に向かうドイツ人ジャーナリストと彼をタク
シーに乗せた運転手とのやり取りを、コミカルかつシリ
アスに描いている。

9.『主戦場』
ミキ・デザキ監督作品 2018年製作

慰安婦問題を、日系アメリカ人の映像作家、ミキ・デザ
キが検証していくドキュメンタリー作品。
ジャーナリストの櫻井よしこ、タレントのケント・ギル
バート、政治家の杉田水脈、歴史学者の吉見義明など(
歴史修正主義者と言われている人たち)へのインタビュ
ー。
さらに、それぞれの立場で論争の渦中にいる人々への取
材、膨大な量のニュース映像や記事の分析を交え、問題
の真相に(極めてオーソドックスな手法で)迫るドキュ
メンタリーとして観ることができた。

10.『パルプ・フィクション』
クエンティン・タランティーノ監督作品 1994年製作

TOHOシネマズの「午前十時の映画祭9 デジタルで甦る永
遠の名作」(残念なことに今年でこのシステムは終わる)
で観た。
やはり、劇場のスクリーンで観るからこその、映像も音
の良さも満喫することができる。
(今更言うまでも無いが)凄い映画である。
それにしても、トラボルタとユマサーマンのツイストを
踊るシーンは最高!

さて、残り半年、観たい映画は山ほどある。