【映画『パラサイト 半地下の家族』】
今週2月9日(日本では10日)、大変なこと
が起きた。
映画『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ
監督作品が「第92回アカデミー賞」で6部門
にノミネートされ、作品賞の他にも監督賞、国
際長編映画賞、脚本賞を受賞した。
韓国映画が作品賞を受賞するのは史上初。
アジア圏の映画としても初めての快挙。
ちなみに、昨年はアルフォンソ・キュアロン監
督作品『ROMA/ローマ』が作品賞の最有力候補
だったが、結果は(監督賞、国際長編映画賞(
メキシコ)、脚本賞は受賞したが)『グリーン
ブック』が作品賞を獲得した。
非英語圏での作品賞受賞はアカデミー史上初。
心底、凄いことである。
ちなみに僕は先月、劇場公開された翌日に観た。
この寓話は、僕らのすぐ隣にあり、皮を一枚剥
ぐと血が滴り、ヒリヒリするような世界を描い
ていると感じた。
普段、あまり映画のことに興味のない方のため
にあえて大げさな言い方をすれば、アジア人が
オリンピックの陸上100メートル走の金メダ
ルをとったようなものである。
ポン・ジュノ監督の作品をはじめて観たのは、
2003年の東京映画祭で上映した『殺人の追
憶』だった。
大きなスケール感とデヴィット・フェィンチャ
ー監督(『セブン』『ファイトクラブ』)のよ
うな鋭利なリズム感のある作品だと思った。
余談だが、『パラサイト 半地下の家族』同様、
『殺人の追憶』でも雨がとても効果的に使われ
ていた。
この後、『グエルムー漢江の怪物』『母なる証
明』と毎回、映画の可能性と濃密で繊細な表現
に、おもわずニンマリとした。
今回の受賞作『パラサイト 半地下の家族』同
様、アカデミー賞にノミネートされた『ジョー
カー』ホアキン・フェニックス主演(今作で主
演男優賞受賞)&トッド・フィリップス監督作
品、昨年ノミネートされた『万引き家族』是枝
裕和監督作品と、それぞれに通底しているのは、
社会の「分断」と「格差」である。
今日の韓国であれ、米国であれ、日本であれ、
下階層のものだけが一方的に我慢を強いられ、
それによって成り立つ社会の様をシニカルに、
そして時にコミカル(あまりの痛さに笑ってし
まうような)に活写している。
近年、アメリカをふくめた世界中で、富の不平
等は大きな問題として取り沙汰されている。
そして、経済問題に絡んだ大規模な反政府デモ
も珍しくなくなった。
こうした状況だからこそ、格差社会を描いた今
作が国境を超えて共鳴を呼んだのだろう。
映画『パラサイト 半地下の家族』には、韓国
社会というローカル性と、世界中で共感される
ユニバーサルな側面が備わっている。
受賞後の会見に現れたポン監督は、笑顔でガッ
ツポーズしながら言った。
「純粋な韓国映画が世界の観客から大きな熱狂
を集めた。私が自分の身近なことに没入すれば
するほど、物語はより国際的な共感となった」。
ドメスティックな事柄を徹底的し突き抜けると、
グローバルに通じる。
物事の本質は、自分の足元にこそ存在している
のだと改めて感じた。