【私的No.1「黄金の揚げもち 塩味」】
前回の870号につづき、岩塚製菓株式会社高橋部長との対談である。
●“一方的”から“相互的”へと変化した顧客との交流
川村:自社メディアを立ち上げる中で、ファンというキーワードには当初から注目されていたのですか?
高橋:市場が縮小していくことは明白でしたので、岩塚製菓のファンの育成と囲い込みは着手するべき取り組みとして重要視していました。
川村:ファンが企業の新たな成長エンジンにつながると感じていたわけですね。それが今運営している「おこせん※1」と「大人のぽりぽりクラブ※2」の開設につながっているのですね。
高橋:ファンの持つ可能性を考えれば、岩塚製菓とお客様をつなぐ場作りは外せません。ファンは企業にとってコアになるものであり、企業が成長していくうえでの支えでもあります。
川村:おっしゃる通り、ファンは企業にとって心強い応援団です。ファンが見ているのは企業のものづくりへの姿勢や熱量であり、社会に対する責任やその態度です。そこに価格以上の価値を見出しています。だからこそ、同業他社との過度な価格競争という負の連鎖から脱却できるとも言えます。
高橋:独自路線を進むためには、ファンとのコミュニケーションが何よりも大切だと考えたのです。そのためにはまずシステムが必要であり、何よりもコンテンツを用意しなければなりません。
川村:どちらもファンサイトづくりには欠かせないものです。特に、ファンが集まり、企業とともに成長するためには、魅力的なコンテンツが必須です。
高橋:まさしくその通りで、ファンサイトさんにお願いしたのはそれが第一の理由です。単なる企業から発信する情報ではなく、お客様を起点としたコンテンツづくりにとても魅力を感じました。
川村:ありがとうございます。ファンサイトの最大の特徴は、ファンとのコミュニケーションにあります。お客様の声を聞き、会話をするためのコミュニティの場を作り出すことを何よりも意識しています。
高橋:今までだったらチラシやマスメディアなどを通して一方的に情報を発信する方法が主流でしたが、これからはWebを使って相互的な交流を行うことができます。また、購入前にサイトのレビューを読んで嘘のない評価を参考にすることも消費者にとって普通の行為になってきています。
川村:購入して気に入ったものをSNSで周囲に知らせることも一般化してきていますね。昔なら口伝えで評判が広がったものでしたが、今ではスマートフォン一つあれば容易に口コミで広がっていきます。
高橋:Webが普及する以前なら店頭で商品を見つけて買い、気に入ればリピーターになっていただけました。しかし今は、当社のファンが気に入った商品を宣伝してくれて、それを見た方が商品を店頭で手に取ってくれるという、循環型の消費行動へと変化しています。このサイクルの中で岩塚製菓もしっかりとシェアを獲得していこうというのが現在のビジョンです。
●自社の強みを消費者へダイレクトに伝える
川村:ところで、高橋部長は御社のファンの存在をどのように感じていますか?
高橋:例えば、商品が1つ売れるにしても、そのシチュエーションはお客様によってさまざまです。初めてご購入いただいたのか、それとも2度目なのか。気に入って毎月ご購入いただけている場合もあります。
川村:同じ買物行動でも、その背景にお客様の商品や企業への愛着や信頼性が深く関わっているというわけですね。
高橋:いわゆる顧客ロイヤリティを高めることによってリピート率は変わり、それが全体的な売り上げへとつながっていく。私たちを信頼して購入してくれているファンは企業の成長になくてはならないものだと考えています。
川村:店頭で偶然目にして手に取ったわけではなく、意識的に岩塚製菓さんの商品を探して購入していただけるわけですから、本来の企業ブランドが作られていき、安定した売り上げにもつながるようになりますね。
高橋:おっしゃる通りです。特に、今回の新型コロナによって外出できない時期にネット通販が好調になるなど、商品との接触機会に大きな変化が起こりました。Webの重要度がさらに高まった今、サイトを通してファンと交流できる仕組みを持つことは企業にとって強みにもなります。
川村:日本中が「ステイホーム」になりましたが、これを機にECサイトの強化や自社メディアを活用する企業が増えているように思います。
高橋:おそらく、多くの企業が従来の営業方法に不安を覚えたからだと思います。実際、リアル店舗の棚に商品をどれだけ並べられるかという売り方は、外出の自粛によって脆弱性が露呈したわけですよね。いざという時にECサイトや自社メディアがない企業は打つ手がなくなるでしょう。リスクヘッジの観点でも自前でメディアは持つべきです。
川村:私も今後は大手企業だけでなく、中小企業にとっても必要不可欠なものになっていくのは間違いないと思っています。
高橋:同業他社の動きを見ていると、テレビCMなどを活用して宣伝広告費に力を入れた従来の路線を行く大手企業や、反対に宣伝広告費を抑えて新たな路線を走る企業もいるなど、戦略はさまざまです。では、岩塚製菓はどのようなポジションを取るのか。独自の路線を目指すためにもファンサイトは有効な手立てだと考えています。
川村:独自のメディアを持つことで、自社の特徴や強みをお客様へダイレクトに伝えることができます。また、顧客との距離を縮めるという、どの企業も抱えている難しい課題の解決にも役立つはずです。
高橋:弊社の特徴は、何と言っても国産米100%へのこだわりです。米菓業界では使用原料米に中国やアメリカなど外国産のお米を使っているメーカーが多い中で、このこだわりをいかに広く伝えていくかは、他社商品との差別化のためにも非常に重要になります。
川村:食品に対して安全安心を求める消費者は年々増加しています。岩塚製菓さんの取組みはとても時代の要望に適っているので、使用原料米へのこだわりが認知されるほど応援してくれるファンも増えるでしょうね。
高橋:私もそう願っています。実際、添加物が多く含まれたものや、海外の原材料を使ったお菓子は子どもに食べさせたくないという親御様は多いようです。しかし、食べさせたくないと思っていても、そこまでしっかり調べている消費者はそんなに多くない。そもそも原材料に関心を持っていない方が多いのも実情です。
川村:日本というお米がおいしい国で、原材料として輸入米がこれほど多く使われているのには、正直、少し驚きました。
高橋:こうした情報は、自分たちが口にしているものに対する関心度を高めるためにも、メディアを通して発信していきたいコンテンツの一つです。
●課題はWebとリアルをいかにつなぐか
川村:現在、私たちもお手伝いさせていただいている「おこせん※1」と「大人のぽりぽりクラブ※2」を展開していますが、自社メディアを持つメリットはどんなところにあると感じていますか?
高橋:やはりファンを顕在化できるところですね。当社の商品に対する反響をダイレクトに受け取れるので、商品開発などに活かすことができます。また、商品を楽しんでくれているお客様の声や笑顔が届くのは、社員はもちろんのこと関わっていただいている関係者の方々のモチベーションアップにもつながりますね。
川村:反対に、課題に感じているところは?
高橋:コンテンツをどのようにして実際の販売に結びつけるのかという点です。現在の岩塚製菓の全体の売り上げを考えると、リアル店舗での販売が大半を占めています。いかにしてWebサイトで認知していただいたお客様をコンビニやスーパーへと誘導し、お得意先様とリアルな売り場を作っていけるか。これが今後のコンテンツづくりの課題です。
川村:確かに、Webサイトとリアル店舗をつなぐ作業は今後必須です。例えば、お菓子コーナーの棚にファンの声を反映したメッセージボードを施したり、店舗とのコラボキャンペーンを展開したりと、まだまだ手付かずのところが多々あります。
高橋:そのためにも基本となるコンテンツがお客様にとって有益な情報でないといけません。まずお客様に関心や興味を持っていただくことが大切ですので、そこはファンサイトさんの力をお借りしたいです。
川村:これまで第1段階として岩塚製菓さんのファンを発見し、ファンの声を聴く(傾聴)、そして対話する場(ファンサイト)を作るところまで来ました。次は、集まったファンの方々が活躍(対話と活性化)していけるよう、ファンの方々自らが、まだ岩塚製菓の商品を知らない人たちにその価値を伝え広めていく活動を支援します。岩塚製菓さんのファンサイトは今まさにこの段階に突入しています。
高橋:私もファンサイトさんがこの2つのメディアをどのように成長させてくれるのか、とても期待しています。
川村:ぜひ楽しみにしていてください。多くの岩塚製菓さんのファンの期待を背負いつつ、全力で取り組んでいきたいと思います。本日は長時間に渡り貴重なお話を伺うことができました。本当にありがとうございました。
※1 「おこせん」:岩塚製菓のロングセラー商品「お子様せんべい」(・岩塚のお子様せんべい・がんばれ!野菜家族・がんばれ!小魚家族)を背景としたファンサイト。「泣き止み」や「寝かしつけ」といったテーマを通して、育児中のママと・パパを応援するファンサイト。赤ちゃんの笑顔が日本一集まったサイトでもある。
※2 「大人のぽりぽりクラブ」:岩塚製菓の(・岩塚の黒豆せんべい・味しらべ・ふわっと・大袖振豆もち・田舎のおかき・ 大人のおつまみ・黄金の揚げもち)おやつに、小腹満たしに、そしてお酒のおつまみとして米菓を楽しんでもらうために新しい食べ方の提案やちょっとした小話を紹介。
まったりとした時間を過ごしている(小さな幸せ時間)写真が、日本で一番集まったサイトです。
2020年5月8日取材。