第878号『なくなっては困るのだ』

【ビールと海苔の佃煮と】

2ケ月ほど前、協力会社のマーケッターと、リモート会議中の雑談で出た話しである。

まだまったく終息しているわけではないが、ここまでの時点でコロナ禍で売上を伸ばしている企業の共通点を分類してみると、だいたい3パターンに分かれるのではないか、と。

・「どうしてもコロナ禍生活に必要なモノ」を扱った企業。
スーパーやドラックストアなど、食品をはじめ、トイレットペーパーやアルコール、マスクなどを扱っていた店舗。
自宅待機と感染リスクという生活の変化の中で、必要な商品を取り扱っていたから売上を伸ばした。

・「ネットショップ」。
非対面のネットショップに消費者が流れ、ECサイトの多くが売上最高記録を更新した。

・「ファン」と、しっかりとした信頼関係を作っていた企業。
総じて外出頻度が減り、店舗に立ち寄る客が激減した。
しかし、SNSやメルマガで情報発信をすることで、馴染客が応援のために来店し、売上を維持することができた。

つまり、このコロナ禍で強い企業は、「必需商品」「ネットショップ」「ファン」という、3つの要素のどれかを持っている企業であり、この3つを持っていなかった企業が今回、苦戦を強いられている。

コロナ禍によってこれまでの日常とは違う生活のなかで、「必需商品」に群がり、対面恐怖に駆られ「ネットショップ」にお客様が大量に流れ込んできた。つまり、戦略やマーケティングで業績を伸ばしたというよりは、適時時流に乗ったということである。

一方、「ファン」で売上を伸ばした企業は、これまでコツコツと地道に築いてきたお客様との信頼関係と、メールやSNSをはじめとした情報発信が相乗効果を発揮した。
お店からの情報発信があり、ファンが集まる企業だから、これまでのブランディング戦略もうまくいっていたに違いない。

また、お客様に届ける情報が常日頃からできていたからこそ、ピンチの時にお客様を動かすことができた。
情報発信とブランディングがうまく機能している企業は、今後、どんな非常事態が発生しても、お客様が守り続けてくれる。
だからこそ、息の長い商売ができる。
おそらく、優良顧客の数が、コロナ禍における売上に、大きな影響を与えることは必須だし、アフターコロナに至ってはさらにこの「ファン」を持つことの意味が増すことも間違いなさそうだ。
このことに気づいた企業が、これから確実に動きはじめる。と。

この雑談をした後、どうしても行きたくなった店があり、出かけた。

ジリジリする暑さと、むっとする湿った空気がからみつく日。
蜜を避ける意味でもと思い、夕方には少しはやい時間に到着。
暖簾をくぐり、すりガラスの戸を開ける。
クーラーのひんやりとした風にのり、ふっと出し汁の匂いが鼻をかすめた。
客は八割方の入り。
席に案内され、座るなりホール担当に注文する。
ビールとつまみが運ばれ、それをやりながらそばを待つ。
間もなく、店主が挨拶に来てくれた。
いつものように、軽く冗談を言い合いながら、コロナの影響はどうかと尋ねた。

店主曰く、「正直かなり厳しいけれど、お顔とお名前がわかる馴染みのお客様がいてくだされば、なんとかなります。信頼していただけるお客様が応援し、支えてくれています。うちには応援してくれるお客様がいる。それが、強みです。」と。

お客との信頼関係がしっかりと出来ている。
なんだか、嬉しくなるような言葉だった。
そして、改めて思った。
やっぱり、居心地の良い店はいいなー。
だから、なくなっては困るのだ。