第886号『もちろん大好きな「ミレイ」で。』

【生春巻き】

来春予定していた新年会を、中止することにした。
このことを例年参加してくれている仲間、一人ひとりに連絡した。
この集まりは、ファンサイト恒例の行事である。
会場は、2013年から続けてお願いしている蒲田の路地裏にあるベトナム料理店「ミレイ」。
2階への細い階段を登り扉を開けると、狭く細長い空間は東南アジア独特の旨味のある香りで満たされている。
この空間で(着席だと20名ほどのキャパのお店に)、40人以上の参加者が食べて飲んで語らう。
混沌としたこの濃密状態が楽しいのだ。
そして、この会を楽しみしていてくれる方々の顔が思い浮かぶ。
加えて、来年はファンサイト有限会社を起業してから20年目の節目の年。
なんとか成立可能な手立てはないかと思案した。
しかし、この状況下では如何ともし難い。
断念するとの結論に至った。

先日、このことを伝えるこため、妻と妻の友人と3人でお店に出かけた。
店主の政氏さんとは、もうかれこれ7,8年のお付き合いになる。
いまのように仲良くなれたのは、5年前の2015年12月のことだ。
もともと、お料理が美味いと評判だったこの店に、妻や友人たちと何回か食事に訪れていた。
そして、ここで忘年会をしてみたいと店主と交渉し、2013年12月12日木曜日に最初の忘年会を開催した。

これ以降、(参加した方々からの評判も良く)なかなか予約の取れない人気店ということもあり、12月の第2週の木曜日を忘年会として恒常的に事前予約することにした。

2015年12月10日(木)開催日の前々日、参加人数も確定したので、その旨を知らせるべくお店に電話した。

すると、受話器の向こうから、予約は受けていないとの声。

一瞬、なにを言っているのか、意味を理解できない。

再度、会社名と予定日と人数を告げた。

しかし、その日予約は受けていないと繰り返された。

しばらく押し問答をしたが、拉致があかない。

腹立たしいおもいで、電話を切った。

しばらくして冷静に考えてみれば、こちらにも非はある。

1ヶ月前に事前確認しておけば、こんなことにはならずに済んだ。

しかしその一方で、声を掛けた仲間の顔がぐるぐると頭の中に浮かび上がってくる。
予約確認の電話するまで、「カワムラの仕切りはいいね!」と仲間から言われるような自分をイメージしていた。

まるで、スキー場のゲレンデをさっそうと滑り降りてくるような気分でいた。

ところが、みんなが見ている前でターンが決まらず、派手に転倒したようなものだ。

年末の忙しいなか、わざわざ時間を捻出し参加してくれている方々や仲間たちになんと言えばいいのだろう。

とにかく、謝りの電話とメールで、一人ひとりに事情を話した。

こうして、一人ひとりに説明しているうちに、あらためて確信したことがある。
忘年会はただたんに、仲間が集まり飲み食いするためだけのものではない。

本当に、仲間として大切にしたいとの思いで一年の最後を締めくくるために集まるのだ。
だから、みんなが好きな同じ店で、こんどは一年の最初を良い形でスタートするための新年会を予約したい。

妻からの助言もあり、店主の政氏さんに再度電話した。
そして確認しなかった僕自身の非を詫び、改めて新年会の予約をした。
すると、受話器の向こうの新氏さんの声のトーンが明らかにかわった。
こうして、2016年1月14日(木)に新年会を開催した。
そして、この出来事がきっかで、政氏さんとは友だちとしての関係を築くこと出来た。

飲食をはじめ多くのお店は、いまコロナ禍で本当に大変な中にいる。
どのお店も血の滲むような努力をして、なんとかこの荒れ狂う状況を乗り越えようと耐えている。

「ミレイ」は絶対に失くなっては困るお店のひとつである。
こんな中で、僕がいま出来ることは少人数で行く回数を増やすこと位である。

新年会中止の告知後、来年コロナ禍が終息したら20周年記念でまた集まろうと、一人ひとりに連絡した。
会場は、もちろん大好きな「ミレイ」で。