第923号『導入対談 株式会社ATEA様 前編』

【ATEA 大杉代表】

数年ぶりに自社のホームページを全面改訂している。
今回で5回目。
加えて、起業して今年20年の節目の年。
これまで5回のリニューアルで出来たルールがある。
それは、入社2年目3年目といった比較的社歴の浅い社員が担当することだ。
最初は僕が作ったが、次はデザイナーとして入社した仁田原さんが、3回目は営業の柳澤くんとライターの田中くんが、4回目は制作進行の文屋くん、そして今回5回目の改訂版は、デザイナーの後藤さんとシステムの楠原くんが担当することになった。
加えて、ライターの倉家さんにも多大なる協力をいただいた。
最新版ホームページについては、ローンチが決まった段階で読者および関係者の皆様に改めてお知らせしたい。

さて、今回の改訂版には新しいコンテンツも用意している。
今号と次号の2回のファンサイト通信で、その一旦をお披露目したい。
そのコンテンツとは、導入時の経緯や仕事の有り様やクリエイティブの基本となる考え方などを、具体的な事例を通し対談というかたちでまとめてみた。

今回の導入事例は”株式会社ATEA”
代表取締役 大杉日香理様との対談の模様を掲載する。

【はじめに】
株式会社ATEAは、歴史、神話、生理学、地政学、神話、ビジネス、栄養学などの総合的な知識を体系化したメソッドを提供している企業です。日本で初めて神社を参拝するツアーを事業化し、なかでも屋外でのアクティブラーニングである「神旅®」は毎回満席、リピート率は90%以上をほこっています。そのほかにも、さまざまなユーザーに向けてコンテンツを発信していますが、サービスが増えるにつれてサイトの構造が複雑化してしまったため、“利用者にとって見やすいホームページ”を目的としたリニューアルをファンサイトが手掛け、現在も運営を一部担当しています。今回は、代表の大杉日香理さんに当時の悩みや、サイト運営についての感想などを伺いました。

●“迷走”のきっかけは制作会社との視点の違い

川村:最初に大杉さんからいただいたご依頼は、カンパニーサイトをリニューアルしたいというものでした。そこでサイトのシステムを確認したところ、機能の追加・変更の継ぎ足しが繰り返され、システム全体の構造が複雑化している状態だったのを覚えています。

大杉様:お恥ずかしいかぎりです。当時は、「思いが伝わらない」ホームページになってしまっていたことが悩みでした。サービス内容をよりわかりやすく伝えたいと悩みながら、手を替え品を替え、サイトを構築していた結果、自分ではもうコントロールがきかない状態になっていました。

川村:お客様への思いが強いからこそ、新しい機能やデザインを組み込んで複雑化してしまったのですね。しかし、これはよくあるケースでもあります。

大杉様:以前にサイト制作をお願いしていた会社と方向性についてうまくコミュニケーションがとれていなかったのも原因の一つだと思っています。

川村:どのようなすれ違いがあったのでしょうか?

大杉様:振り返ってみると、伝わらない原因は「視点」の違いでした。私としてはビジネスなのでサービスを売り込みたいという気持ちは当然あります。しかし、セールスはATEAの世界観を共有していただいたあとに発生するものだというのが私の考えです。ただ、それを制作サイドにうまく説明する言葉を持っていませんでした。

川村:つまり、サイトの制作会社としては「売る」という視点で運営を続けていたが、大杉さんとしては「世界観を共有したい」という思いやミッションを伝えたい。たしかにそれではズレが生じますね。

大杉様:実際、セールス視点での提案をいただくことが多くて、こうした仕組みにしたほうがいい、とか、こういうデザインがいい、と言われるがままに進んでしまっていました。

川村:気づいたら、いろんな方向へ拡散してしまい、もう戻れなくなっていた、と。

大杉様:そうしたサイクルを何十回と繰り返すなかで収拾がつかなくなり、またゼロから作り直そうということで、リニューアルへと踏み切ったというわけです。

川村:リニューアル前のサイトを確認した時、いろんな制作会社さんが関わってきたことが見て取れたのと同時に、大杉さんもすごく試行錯誤されてきたのだな、と切に感じました。

●原点回帰できるものがあればトーンは崩れない

大杉様:初めて弊社にご足労いただいた時に、川村さんから「ブランディングとは何か」について教えていただきました。資料をお持ちいただき、本来であれば有料で伺うような内容を1時間以上にわたってお話しいただき、あらためてブランディングの深さが理解できました。

川村:覚えていてくださって光栄です。

大杉様:それに、ブランディングもマーケティングやセールスなどとの連動性がないと、会社としての個性にはならないと危機感を持っていたので、川村さんなら会社としての思いを立体的に形作ってくれると確信しました。

川村:ありがとうございます。連動性を無視してホームページを制作すると、後々ぎくしゃくしてくるんです。また、肝心の根幹が固まっていないのにテクニックだけで進めてしまっても、それもトラブルの原因になってしまうことがあります。

大杉様:サービスや方向性については今も迷うことはありますが、そんな時、立ち返る場所になっているのが、作っていただいたロゴやキャッチコピーやキービジュアルなんです。言い換えるなら、“帰る港”でしょうか。迷っていろんなことに手を出したくなっても、原点回帰できるものがあるからこそ、トーンが崩れない。

川村:100年企業の多くは、基本的に原点に立ち返るキャッチコピーやキーワードを持っています。例えば、三菱化学は三菱財閥の中興の祖である岩崎小弥太の「万物化成」という言葉をキーワードにしています。世の変化に対応し進取の気風を持って常に進んでいくという、チャレンジ精神を忘れないためのミッションを持っていますよね。

大杉様:そうしたお話しを伺うと「なるほど」と思うのですが、ATEAのキャッチコピーとしていただいた「心のカタチを整える。」は、少なくとも私には作ることができませんでした。

川村:別に私が発明したわけではありません。キャッチコピーなどは依頼主のなかに内在しているものを集約的に言語化しているので、大杉さんのなかにそうした思いがあったはずです。

大杉様:たしかに言葉を見て衝撃が走ったことを考えると、そうかもしれません。ただ、ファンサイトさんはキャッチコピーにしても、ロゴにしても、きちんと言語化して理由を説明してくれますよね。だから納得感がとても高いんです。

川村:ホームページというのは肝がないと機能やテクニック頼りになってきて、ブレていってしまいます。そういった意味で、ATEAさんのロゴをまかせていただいたのはとてもありがたかったです。

大杉様:こちらこそです。ロゴについても、なぜこのフォントなのか、なぜこの太さなのか、またなぜこのカラーに決めたのかなど、それぞれの意味を言葉で伝えていただけたのは衝撃体験でした。

川村:それが仕事なので(笑)。でも、ATEAさんの業態も、ロジックを持ってサービス内容を言語化していますよね。それと同じです。おそらくそこはファンサイトの生業と似ているような気がします。

大杉様:今言われて気づきました、たしかにそうですね。

川村:なによりリニューアルサイトを立ち上げてから後も更新していくなかで、御社の考え方がお客様にきちんと伝わっているということは、正しく言語化できているからこそです。それが御社が目指している次の姿へもつながっているのではないかと思います。

前編終了、後編は924号へつづく。