第156号『まっとうな野菜』

先々週、三面記事で奥崎謙三氏の死去を知った。
ドキュメンタリー映画「ゆきゆきて神軍」(87年、原一男監督)での、あまりに壮絶な映像がいまだに脳裏に焼き付いている。

奥崎氏は第二次世界大戦中、陸軍上等兵としてニューギニアに従軍し、戦後は神戸市内でバッテリーなどの自動車部品販売店を経営していた。
69年1月2日、皇居での一般参賀中、昭和天皇に向かってパチンコ玉4発を発射し逮捕された。
この事件については「ヤマザキ、天皇を撃て!」の著作もある。

映画「ゆきゆきて神軍」はニューギニア戦線で生き残った元日本兵、奥崎氏が上官らの戦争責任を追求していく様を映し出だしている。
例えば、終戦後23日もたってから、2人の兵士が敵前逃亡の罪をとわれ5人の上官によって処刑された。
その5人の上官を一人一人訪ね、当時の状況を聞き出す。
その詰問があまりに過激である。
そして、彼らは奥崎氏の追求で、飢餓状況の中で人肉を食したことも証言するにいたる。

戦後、戦争責任ということばを大多数の人々は真正面から発することはなかった。
しかし、彼は声高に言い放った。

誰が、何故、この戦争を起こしたのか。と。

原則論を掲げる人は、必ず世の中をうろたえさせる。
それは、反発を招き、物議をかもしだす。
そして、同意するにせよ、排除するにせよ、原則論を示されれば、うろたえながらも人々は考える。

衆議院に立候補中の83年、上官だった元中隊長宅を訪問し、ちょうど居合わせた元上官の長男に向かって拳銃を発砲。
殺人未遂で逮捕され、懲役12年の判決を受けた。
出所後は一人暮らしで、近年は病気がちだったという。

故中島らも氏が、奥崎謙三氏について語ったことばを思い出した。
「まっとうな野菜がそうであるように、彼はゆがんでいる。」
けだし、名言である。

今年、戦後60年を迎える。
そして、戦争の記憶がまた一つ消えた。

奥崎謙三、享年85歳。
合掌。

追伸
久しぶりに「ゆきゆきて神軍」を観ようと、近所のレンタルビデオ屋さんに探しに行ったのですがないとのこと。
消費者調査で、どのビデオやDVDをどのくらい揃えればいいのか全部データ管理しているのでしょうが、レンタルビデオ屋さんがTとかGばかりになってしまうと、なかなかこうした商業ベースからは外れているけど、良質な作品を観ることが難しくなるのだなと実感しました。
どこかで見かけた方、ご一報ください。

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