夏休み、随分と散らかし放題だった書棚を片付けた。
「整理とは、捨てることなり」 先輩から教えていただいた極意である。
しかし、なかなかそうはいかない。
気がつけば、古いノートやら日記などしゃがみ込んで読んでいる。
パラパラとスケジュール帳をめくると最後のページに「ミナミのプロフィール」という文字を見つけた。
38歳
男
独身
職業、国語の教師
趣味は料理と音楽、そして旨いウイスキーを飲むこと
走り書きのメモがしるされている。
僕がいま、こうしてファンサイトを曲がりなりにも経営できているのはこのミナミさんの登場があったからだ。
2000年、年の瀬も押し迫った12月28日。
当時、博報堂インタラクティブ局の野村秀之氏から連絡をいただいた。
「川村さん、ちょっと手伝っていただけないでしょうか?」と。
ほどなく、アカウントディレクターの北河克仁氏と3人で、日本橋小網町にあったキリン・シーグラム株(現キリンディスティラリー株)にマーケティング部の浅野高弘マネージャーと担当課長の古野徹氏を訪ねた。
「近頃、テレビコマーシャルや新聞、雑誌広告、それにバナー広告などマス広告が効かなくなっている」
浅野氏は概ねこんな話をされた。
浅野氏、古野氏が担当するウイスキー、「ボストンクラブ」は640ml入りボトルで1,000円前後の価格。
サントリーの「膳」、ニッカの「ブラックニッカ」とならぶ典型的な普段使いのウイスキーだ。
マス広告の効果低下、加えて顧客のウイスキー離れ。
ハードリカーはチューハイなどのソフトなものに押され、好まれなくなっていたという背景もあった。
さらに、この年サントリーの「膳」は前年に続き、真田広之を配してCMでの大々的な広告展開をし、シェアーの差をあけられていた。
キリン・シーグラム社のウイスキーを愛してくれるお客様は確実にいる。
大きな広告予算をかけずにそれを実現するためにはどうすればいいのか。
そして「ボストンクラブ」を愛してくれるお客様と、新規のお客様に喜んでいただけるためには、どんな方法があるのだろうか。
たどりついたのが、webサイトによる密度の濃い、長期的な関係づくりだった。
さらに、浅野氏は言った。
「いまウイスキーのヘビーユーザーはそのほとんどが男性で、しかも高齢化している。できれば30代前後の若い層や女性をも開拓したい」
どんなWebサイトがこの難問を解決しうるのか。
北河氏、野村氏との沈黙が続いた。
ビルから外に出ると冬空に星がまたたき、寒さが身にしみた。
次号160号につづく。