第333号『仮に、●●が■■だったら』

【仮に虹が橋だったら】
【仮に虹が橋だったら】

アトリエの近くに浜町公園があり、この公園のなかに区民スポーツセンターがある。
マシーンも体育館も、そしてプールもある。
このプール、朝7時からの営業なので、仕事が始まる前に利用することができる。
こうして、去年の5月から週に2、3度、1回700mから1200mほど泳いでいる。
毎回、泳いだ距離をノートの片隅に記録する。
数えてみれば昨年、118km泳いだ。

今年はじめ、1つのアイディアが思い浮かんだ。
「チャネルスイマー」になってみよう。

ドーバー海峡を横断したスイマーを「チャネルスイマー」と呼ぶ。
イギリスのドーバーからフランスのカレー市の海岸まで直線距離は約34km。
しかし、潮流が速く、海では真っ直ぐに泳ぐことほとんど不可能だ。
したがって、実際に泳ぐ距離は約60kmほど。
記録が公認されるのは人の手を借りず、水着もウェットスーツ着用では公認されない厳しさである。
冷たい水温、夜を徹して泳ぐことになる精神的疲労など、さまざまな障害があり、単独横断泳の成功率はかつて約10%という困難な挑戦だった。
水温の変化や潮の流れなどのデータ解析やスイマーの技術向上により成功率は上がったが、それでも60%程度。

もちろん、実際にドーバー海峡を泳ぐための泳力も時間もお金もない。
でも、仮に、このプールがドーバー海峡だったらどんな気分で泳ぐことになるのかしら。
想像し、計算してみた。
60Km÷(週3回×1回1000m)=約5ヶ月。
自分が公認する「チャネルスイマー」にだったらなれる。
こうして、自己公認(^^!「チャネルスイマー」達成を目指して、今年1月から泳いできた。

飲み過ぎた日の翌日、寒い日、仕事が立て込んでいる日。
様々な条件を潜り抜け、ようやく58.3 km地点まで来た。
ただ、もくもくと泳ぐのも好きだが、こうして物語の主人公のように泳ぐのもおもしろい。

残り1.7 km。
プールに入り、蹴のびで水中を滑るように進む。
目をつぶれば、いよいよ訪れたことのないフランス、カレー市の海岸が見えてきた。

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