六本木ヒルズにある映画館、TOHOシネマズで映画を観た。
巨大なスクリーンと圧倒的な音量。
だから、ここがこの映画を観るには一番、適だと思った。
映画『THIS IS IT』はマイケル・ジャクソンのロンドン公演に向けた、リハーサルを中心に編んだドキュメントである。
彼の突然の死がなければ、この映画の存在そのものが無かったかもしれない。
一人の演者と対峙する踊り手、演奏者、音響技術者、舞台、衣装等々、関わったすべての人々との表現を巡るせめぎ合い。
観客に自らのメッセージを伝えたい。
その想いと願いから生まれる妥協の無い準備。
リハーサルがこれほどまでに、スリリングで緊張感のあるものだとは想像だにしなかった。
これは、まさしくその闘いの様の記録だ。
マイケルのパフォーマンスを観ながら、ふと能の振舞いが重なった。
もともと、能は今のようなのんびりとしたものではなく、演者と演者が競い合う激しいものだったと聞く。
世阿弥は「風姿花伝」のなかで言及している。
自らのレパートリーを持ち、調子が乗ってきたら他を圧倒せよ。
さらに、オリジナルな表現のない演者は、兵器のない軍隊のようなものだ。と。
まさに、「風姿花伝」は一種の兵法の書である。
世阿弥は断言している。
花とは観客の心を感動させるもののことである。
「花と、面白さと、めずらしきと、これ三つは同じ心なり」と。
舞台にマイケルという花が咲き、そして風のように去って行った。
エンドロールが流れると、だれかれとなく観客席から拍手が沸き起こった。