60個以上あった段ボール箱もようやく片付き、横浜金沢アトリエが本格稼働しはじめた。
住めば都、なかなか居心地が良い。
実は今回の引っ越しで、妻と小さな諍いがあった。
1月中旬、浜町アトリエから横浜へ荷物を運ぶことが決まり、その準備に追われていた。
その最中、妻が契約終了日、つまり、1月31日まで浜町アトリエで過ごしたい、と言い出した。
僕は、仕事のペースを掴むことや環境に慣れることを考えると、引っ越しと同時に横浜金沢アトリエで作業するべきだと言った。
ここにいつまでも拘泥したくない。
さっさと次に進みたいと主張した。
しかし、思った以上に妻の想いが強かった。
僕はなぜと問うた。
妻は答えた。
4年間お世話になった人たちと、何もなくなった部屋での宴や、最後の掃除をきちんとしていきたいのだと。
その時不意に、映画、フェリーニの「道」の一場面が思い浮かんだ。
旅芸人、ザンパノ(鎖を身体に巻き付け、それを千切るだけの、なんとも陳腐な芸を見せている大男)とジェルソミーナ(貧しさのあまり、母親がザンパノに売り飛ばした娘)が興行で立ち寄った小さな町を去ろうとした時、ジェルソミーナが土をいじっている。
ザンパノが、ジェルソミーナに何をしているのかと聞く。
すると、彼女は答えた。
「種を植えているの」、と。
ともあれ、僕らは僅かな家財道具を残し、契約終了日のその日まで浜町アトリエで過ごした。
仲間たちと酒と肴を持ち寄り、語らい、ギターを爪弾き、唄った。
そして、1つの歌が生まれた。
それが、SONG「浜町アトリエ」。