第506号『森で彷徨った時のこと』

【夕暮れを待つ観覧車】
【夕暮れを待つ観覧車】

ご縁があり、春から某芸術系大学で週1回教鞭をとることになりそうだ。
ただし、該当する学科担当教授とは別に審査基準があり、結果はそれを待たなければ
ならない。
ともあれ、久しぶりに履歴書を書いた。

その履歴書を眺めながら、改めて30代後半から起業するまでの、10年余りの変遷を
回想した。
あまり見栄えの良い話ではないが、この間、移動した会社の数、6社。
転々とした理由は様々、例えば会社内での内紛に巻き込まれたり、バブルの後遺症を
引きずりそれが原因での倒産だったり、単純にトップとの諍いであったりと、噛み合
わせが悪かった。
それにしても、なぜあれ程に、上手く行かなかったのだろう?

一言でいえば、貧すれば鈍す。
クリエイティブな環境に身を置いて、思う存分力を発揮したいと、比較的安定した職場
から飛び出してきたのに、気がつけば場を変える度に、仕事の質も給与も落ちていった。

親の七光りもなければ、名の知れた企業にいるわけでもない。
バックボーンを持たない自分は、この先どうすればいいのだろうかと、日々漠とした焦り
を感じながら、結論のでない暗い森の中で迷っていた。

その、迷宮の森から抜け出せたのは、三つの死と向きざわるを得なくなったからだ。
一つは、46歳で病と戦い亡くなった弟の死。
もう一つは、兄貴のような存在だった従兄弟の死。
そして、自ら命を断った高校時代からの親友Tの死。

人は必ず死ぬという、厳然たる事実。
気がついた。
いままで、社長やクライアントのせいで自分の力が発揮できなかったというのは単なる
戯言でしかなかった。
他人が悪いと、人のせいにしていた自分にこそ、ほとんどの原因があったのだ。

他人に人生を委ねるのはやめよう。
自分の人生は自分でしか演じられない。
その第一歩は、主人公である自分自身を信じてあげることだ、と。

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