火曜日、リズが亡くなった。
妻のさちよとは15年5ヶ月間、僕とも11年の付き合いになる。
再婚同士の2人にとって、この猫の存在はペット以上のものだった。
文字どおり家族の一員であり、大親友でもあった。
2週間ほど前から、食事量が減り呼吸の仕方も少しおかしいことに気がついた。
外に出さずに育てたこともあり、これまで、病気らしい病気に罹ったこともない。
午前中、近くの動物病院に連れて行く。
血液検査をし、数値を確認する。
それほど大きな指数の異変もなく、老齢によるものだろうと栄養剤を点滴し帰宅した。
その日の午後、妻と妻の友人の3人で、雑誌「dancyu」主催の日本酒試飲会に参加し
外食した後、中目黒の桜を満喫して深夜帰宅。
リズは、妻が外出した時は決まって玄関マットに座り待っている。
この夜も、リズはそうして僕らを迎えてくれた。
3日ほど経ち、リズの状態が良くない。
病院を変え、診療をお願いした。
レントゲン検査の結果、腹部に水が溜まり、肺がほとんど機能していないことが
判った。
入院し様子を診ながら腹水を抜き、加えて腫瘍の検査も実施することにした。
後日、悪性胸膜中皮腫が検出された。
土曜日、病院に迎えに行く。
腹水を抜いたので、レントゲン写真でも肺がはっきりと陰影として見えるほど
回復している。
息遣いも楽になったのか、少し元気を取り戻したかのように見えた。
しかし、月曜日再び、息遣いが荒くなる。
病院で検査し、栄養剤の点滴のみで様子を見ることにした。
そして火曜日、朝。
息遣いが荒い。
その上、水も餌もほとんど摂らない。
病院で再度レントゲン撮影をする。
幕がかかったように肺が白濁している。
映像を見ながら、もはや腹水を抜くにも、体力が持たない状態だと判断された。
僕たちは自宅でリズを見守りながら、最後の時間をともに過ごすことにした。
午後自宅に戻ると、少し安心したのか、水をほんのわずか舐めた。
そして、妻のベッドで身を伏せた。
息が肺に入りずらく、嘔吐するようにしゃっくりを繰り返す。
しばらく、伏せながら匍匐前進するように動いていたが、それさえも苦しく
なり、横に寝そべる。
ところが、夕方、突然起き上がり、よろよろと歩きだした。
どうするのかと見守っていると、リズがよく時間を過ごしていた、和室の
障子の側、居間の椅子の上、洋室の布団、いつも排泄していたプラスチック
の容器の中と場所を確認するように巡り、最後に玄関マットの上に伏せた。
家の中を一巡し、ここで過ごした日々を確認したのだろうか。
しばらく、荒い息遣いを繰り返したが突然、痙攣が始まった。
そして、口から水を吐き出した。
もう一度、大きく全身を痙攣させ、動かなくなった。
妻は、リズに「ありがとう」と嗚咽しながら繰り返し呼びかけている。
僕は、ただその側に立ち尽くしていた。
嬉しいときはさらに楽しくなり、悲しいときは側に居て慰めてくれた。
その、リズはもうここにはいない。
でも、僕らの心の中で生き続けていく。
それにしても、リズはなぜ最後の場所として玄関マットの上を選んだのだろう。
それはきっと、ドアが開き、妻と僕が帰ってくるのを、いつもように待っている
ためではないか。
2件のフィードバック
ブラインド越しの朝の光が幾重にもにじみ揺らぎます。ひとつのいのち。ご冥福を祈ります。ひとつの生は他者のための生でもあるのですね。(福)
お二人に見守られて旅立ったリズさんはきっと幸せだったことと思います。
ご冥福をお祈りいたします。