第549号『新人』

【梅のつぼみ】
【梅のつぼみ】

ご縁をいただき、今春4月から新人デザイナーが入社する。
名前は成(ソン)さん、韓国からの留学生。
大学卒業後、印刷会社に就職した。
しかし、憧れの日本でデザイナーとして働きたいとの想いがふくらみ来日。
日本語学校で学び、その後3年間、専門学校でウェブデザインの勉強をした。
この間、焼き肉屋でアルバイトしながら生活費と学費を賄ってきた。

面接でも、大好きな日本で働きたいとの想いが、だれよりも伝わってきた。

30年以上も前の話しである。
ボクはそのころ映画会社を退職し、教師として働いていた。
いつの間にやら、ものをつくるということを一切しない日常。
そんな日々に不満と不安を抱えながら、それでも、それなりに忙しく時は流
れていった。
ある日、雑誌社のアートディレクターだった従兄弟から某化粧品メーカーの
季刊誌のデザインをやってみないかと、声をかけられた。
ボクは中学・高校と、この従兄弟に憧れ、彼の背中を追って美術大学に進学
した。

一念発起、この仕事を引き受けることにした。
何度も打ち合わせをし、何枚ものコンテを描いた。
そして、クライアントへのプレゼンテーションの日を迎えた。
どう説明したのか、覚えていないが、ともあれ無事に完成するに至った。
そして、これがボクがしたかったことだと、はっきりとわかった。

従兄弟の気持ちが今になってよくわかる。
彼は、ボクにものづくりの仕事に戻ってこれるよう心をくだいてくれたのだ。

何のために?
理屈などどうでもよい。
人はつぼみを見ると、なんとか花が咲くまで、かばってやりたくなるものだ。

研修期間、先輩諸氏から指導を受けながらデザイナーを目指しているソンさん
は、どんな花を咲かせるのだろう。
ふと見れば、庭にある梅の木のつぼみもふくらみはじめている。

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