【企業ファンサイト入門】
2005年の夏、一枚の企画書を日刊工業新聞社書籍部に提出した。
商品はもちろんのこと、企業そのものにも個々にファンは存在している。
企業の多くが広告でファンやお客様とのコミュニケーションを済ませてきた。
しかし、これから企業はファンと直接向き合うことが重要になる。
なによりも、インターネットがその関係を加速させる。
だからこそ、企業にとって「ファンサイト」の設置が必須になると。
企画の内容は、概ねこんなものだった。
3ヶ月後、担当していただいたS氏から、先日の企画提案が編集会議で通ったと
の電話連絡が入った。
あまりにもあっさりと決まったので、狐につままれたような気分になった。
こうして、11月から早朝と夜、そして土・日の休日には原稿を書くと決め、
スタートした。
当然のことながら、大体のページ構成と仮の表題はあった。
序章からはじまり、第1章・第2章・第3章、そして第4章まで、200ページ前後。
仮の表題は『「極楽クラブ」の秘密』サブタイトルは「ファンが集まるネット
マーケティング」とした。
しかし、本はもとより雑誌にも執筆したことがない。
机に向かったものの、どう始めたら良いのか分からない。
頭を抱え、ただただ本棚の前をうろうろするばかりで、一向に進まない。
こんな状態が続いたある日、みるにみかねた妻が、コピー用紙を2つに折り、
輪ゴムで括った200ページあまりの束見本を作ってくれた。
この束見本を手にして、やるべきことがリアルに見えた。
そして、年末から正月のあいだ、机にかじりついた。
その後、数度にわたる校正、図版の挿入、表紙や帯のデザイン、さらにタイトル
を『企業ファンサイト入門』と変え、産みの苦しみを経て2006年4月、なんとか上
梓することができた。
この時の経験である。
書く手がぴたりと止まることが再三あった。
本を書くということは、例えれば山に登るのに似ている。
登れども登れども(書けども書けども)山頂がなかなか見えてこない。
さらに、時に大きな岩盤にも出くわし、行く手を阻む。
その岩盤とは、こんなことだ。
普段何気なく発している言葉ではあるが、自分なりの定義が曖昧だったり、意味が
不明瞭なままに使っている。
こうなると、この言葉を噛み砕き自分なりに理解しないことには一歩も前に進めない
(一行も書けない)。
例えば、ブランドという言葉がそうだった。
ブランドとは何か?
考えに考え、ブランドとは「他者との約束のこと」(例えば、吉兆は食材の使い回しで、
例えば、三菱自工はデータの改ざんで、安心や安全の約束を反故にした。そして、また
たくまにブランドは元より、組織も崩壊した)だということに、たどり着いた。
また、最近の流行りでいえば「コンバージョン」「エンゲージメント」「KPIを設定する」
「クラウド」「PDCAを回す」などの言葉も、分かっているようでいて、実は曖昧に使って
いる。
例えば「PDCAを回す」は、P(プラン/計画)D(ドゥ/実施)C(チェック/評価)A(アクト
/改善)を繰り返し、プロジェクト業務を発展的に継続するという意味である。
もっと噛み砕いていえば「やりっぱなしにせずに、良い方向に継続すること。つまり継続は
力なり」と言ったほうがしっくりくる。
意味が分からない言葉を調べるだけに留めず、自分のなかで咀嚼し、どうすれば腑に落ちる
かと考えてみる。
おそらく、こうした作業を通してしか、言葉のより本質的な理解にたどり着くことは出来な
いのではないか。