第784号『2018上半期映画ベスト10』

【1,2,3・・・】

早い早い早い!もう7月だ。
あっという間に、今年も折り返しを過ぎた。

恒例となった上半期に観た映画を振り返ってみる。
年間100本の映画(劇場だけではなくDVDも含み、新旧あわせ)を観る
ことを目標にしている。
観た後、ノートの(自作の)映画鑑賞記録欄に、月日・作品名・監督・
俳優・評価など簡単に記録している。

余談だが、百本ノックに似ていて、数をこなすと捕球が上手くなるよ
うに、数多く観ていると、(自分にとって、これは佳い映画だなとい
う)匂いのようなもを嗅ぎ取ることが出来るようになる。

そんな根拠のない臭覚と、気分で選んだ「上半期ベスト10」を発表し
てみたい。

1.『シェイプ・オブ・ウォーター』
ギレルモ・デル・トロ監督作品 2017年製作

この作品で第90回アカデミー賞、監督賞・作品賞・美術賞・作曲賞と
今回最多の4つの賞を獲得、加えて第74回ベネチア国際映画祭で金獅
子賞にも輝いた。
物語の舞台は米ソ冷戦下1960年代のアメリカ、発話障害で声が出ない
主人公イライザと、人ならざる不思議な生き物(彼)とのラブ・ファ
ンタジーである。
声を出せない主人公イライザ、人ならざる不思議な生き物の彼、さら
にイライザの友人たち、その一人がアパートの隣室に住むイラストレ
ーターでゲイのジャイルズ、そして仕事場の同僚で不器用なイライザ
を気遣ってくれるアフリカ系女性のゼルダ。
監督は、いわば虐げられた側の人々の心象風景を描いている。
そう言えば、監督のギレルモ・デル・トロ自身もメキシコからの移民
である。

2.『グレイテスト・ショーマン』
マイケル・グレイシー監督監督作品 2017年製作

「レ・ミゼラブル」の熱唱熱演で魅了した主演ヒュー・ジャックマン
と、「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞を獲得した音楽チームによる、
ゴージャスでスペクタルなミュージカル。
昨年の「ラ・ラ・ランド」に続いてのミュージカル映画が上位にきた。
本当に質の高い(歌も踊りも)作品が次々と出てくる。
この手のエンターテイメントはハリウッドにどんなに抗っても敵わない。
サーカスを舞台に、様々な個性(異型の人々)をもちながらも日陰で生
きていた人々にスポットライトをあて、成功を収めていくというストー
リーである。

2.『スリー・ビルボード』(同率2位)
マーティン・マクドナー監督作品 2017年製作

ともかく、シナリオが秀悦である。
そして、役者が上手い。
第90回アカデミー賞では主演女優賞、助演男優賞の2部門を受賞した。
米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレ
ッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への
抗議のために町はずれに巨大な3枚の広告看板を設置する。
ここから、警察や住民とミルドレッドとのいさかいが絶えなくなる。
そして事態は思わぬ方向へと転がっていく・・・。
娘のために孤独に戦う母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマン
ドが熱演し、2度目(一度目は、コーエン兄弟監督作品「ファーゴ」)
のアカデミー主演女優賞を受賞。
警察署長役のウッディ・ハレルソンと差別主義者の警察官役のサム・
ロックウェルがともにアカデミー助演男優賞候補となり受賞した。

3.『彼女がその名を知らない鳥たち』
白石和彌監督作品 2017年製作

沼田まほかるの人気ミステリー小説を蒼井優、阿部サダヲが演じ、
「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督で映画化。
いまさらながら、蒼井優と阿部サダヲの役者としての凄さを魅せつ
けられた。
まるで絹糸を出す蚕のように役者が体現の糸を吐き、その糸を監督
が紡ぎ一枚の布(物語=映画)になるように感じた。

4.『万引き家族』
是枝裕和監督作品 2018年製作

「三度目の殺人」「海街diary」の是枝裕和監督が、家族ぐるみで
軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、家族とはなにか、人とのつなが
りとはなにかを描いたヒューマンドラマ。
2018年・第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品。
日本映画としては、1997年の今村昌平監督作品「うなぎ」以来21年
ぶりとなる、最高賞のパルムドールを受賞した。

5.『わたしはダニエル・ブレイク』
ケン・ローチ監督作品 2016年製作

『麦の穂をゆらす風』などカンヌ映画祭、パルムドールの常連ケン・
ローチ監督がメガホンを取り、社会の片隅で必死に生きようとする男
の奮闘に迫る人間ドラマ。
病気で働けなくなった主人公が煩雑な制度に振り回されながらも、人
との結び付きを通して前進しようとする姿を描く。
コメディアンとして活動しているデイヴ・ジョーンズらが出演。
ローチ監督の力強い物語に心が震えた。

6.『レディ・バード』
グレタ・ガーウィグ監督作品  2017年製作

いま最も注目している若手監督。
1983年、カリフォルニア州サクラメント生まれ。
本作で初の(共同監督の経験はあるが、単独での)監督を務めた。
デビュー作ではあるが、見事にゴールデン・グローブ賞作品賞を受賞。
第90回アカデミー賞では、作品賞や監督賞など5部門に選出された。
女性監督としてノミネートされたのは、実に8年ぶりのことであり史上
5度目の快挙でもある。
物語は主人公レディ・バードがサクラメントでのハイスクールでの日常
(大学進学、初めての失恋やセックス、あまり豊かではない家庭での母
との諍いなど)から、新たな地で学生生活を始めるまでを描いている。
こうした通過儀礼的な出来事が陳腐にならず、とても瑞々しく描かれて
いた。

7.『パティ・ケイク$』
ジェリミー・ジャスパー監督作品  2017年製作

本作が長編デビューとなる新鋭ジェレミー・ジャスパーが監督・脚本。
さらに、劇中音楽も全て手がけたという。
困難な状況に置かれながらもラップで成功を収めようと奮闘する女性を
描き、サンダンス映画祭で注目を集めた青春音楽ドラマ。
この手の映画にハズレはない。

8.『犬ヶ島』
ウェス・アンダーソン監督作品  2018年製作

「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督が日本
を舞台に、「犬インフルエンザ」の蔓延によって離島に隔離された愛犬
を探す少年と犬たちの冒険を描いたストップモーションアニメ。
声優陣にはビル・マーレイ、エドワード・ノートンらアンダーソン監督
作品の常連俳優のほか、スカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィ
グ、オノ・ヨーコら多彩な豪華メンバーが集結。
日本からも、「RADWIMPS」の野田洋次郎や夏木マリらが参加。
第68回ベルリン国際映画祭のオープニング作品として上映され、コンペ
ティション部門で監督賞(銀熊賞)を受賞した。

9.『罪の手ざわり』
ジャ・ジャンクー監督作品 2013年製作

「長江哀歌」「世界」など、カンヌ映画祭で高い評価を受け続けている
巨匠、ジャ・ジャンクー監督。
「長江哀歌」以来の長編劇映画となる今作では、実際に中国で起こった
4つの事件が巧みに結び付けられ、いまの中国各地に舞台を移しながら、
貧富の格差が生み出す悲劇が浮き彫りにされていく。
それにしても今作で目を奪われるのは、これまでの作品にはない鮮烈な
暴力的描写である。

10.『フロリダ・プロジェクト』
ショーン・ベイカー監督作品 2017年製作

人工的でカラフルな風景が広がるフロリダ・ディズニーワールドのすぐ
側にある安モーテルが舞台。
その仮の宿に住む貧困層の人々の日常を6歳の少女ムーニーと遊び仲間の
子どもたちの視点から描いたシリアスなドラマ。
主人公ムーニー役にはフロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・
プリンス、母親ブレア役にはベイカー監督自らがインスタグラムで発掘し
た新人ブリア・ビネイトを抜擢。
管理人ボビー役を悪役を演じることが多いウィレム・デフォーが(善き人
として)好演し、第90回アカデミー助演男優賞にノミネートされた。

さて、残り半年でどれだけ(何本)観ることができるか。
観たい映画は、山ほどある。