第797号『面白くすること』

【アイディアマシーン】

40代はじめのころ、広告制作会社に席をおいていた。
大阪に本社のある葬儀会社が東京進出するということにな
り、その販促活動や広告制作をお手伝いすることになった。
余談だが、そのとき制作した広告を田園都市線の中吊りで、
いまも時々見かける。

ある日、その担当部長から呼ばれた。
「仕事ではないが、新潟の巻町にあるお寺でイベント(こ
の後、数年間参加することになる)があるから、ボランテ
ィアとして手伝ってくれ」と言われた。

イベント当日、裏方スタッフとしての業務(司会進行、お
客様接待、食事係等々)が割り振られた。

いろいろな役割の中で、最も人気がなかったのが、下足番
を兼ねた駐車場係だった。

なにしろ8月の猛暑の中、何時間も立っての仕事である。
なかなか、積極的にやりたいという声が上がらない。
そして、僕にボランティアの声がけをしてくれた部長から
「川村頼む!」との一言で、その係(下足番兼駐車場係)
が回ってきた。

僕がリーダー(年長ということもあり)となり、残りは
ほぼ学生ボランティア。
むりやり集めたが、僅か5名ほどで200人以上のお客様対
応をしなければならない。
そんな中で、僕は彼らにあることをお願いした。
下足番兼駐車場係として、ただ立って誘導しているだけ
ではつまらないだろう。
だから、あるものを集めようと提案した。

イベントも終わり、スタッフ全員が集まっての反省会ミ
ーティングが行われた。
各担当部署からの発表が終わり、下足番兼駐車場整備係
として僕の発表の番になった。

発表にあたり、「下足番兼駐車場係」という名前を変更
したいと、申し出た。
そして、今後「出口調査チーム」と読んでほしいと。

続いて、この日(5名の出口調査チームが集めた)お客
様の生の声を披瀝した。
彼らのその報告を聞き、驚きの声、笑い声、うーんと唸
る声など、続きざまに起こった。

発表が終わり、「与えられた役割に、もう1つアイデア
を加えただけで、とても楽しいもになった」と5人は口
を揃えて言ってくれた。

そして翌年、この「出口調査チーム係」に手を上げてく
れたメンバーは、10人を超えるほどになった。