第838号『映画『ジョーカー』を観た』

【『JOKER』】

心待ちにしていた映画、『ジョーカー』を観た。
前評判通りの素晴らしい、否、凄まじい映画だった。

重厚で濃密な物語が繰り広げられた本作は、今年の
ベネチア国際映画祭で、最高賞である金獅子賞に輝
いた。
一昨年は『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレル
モ・デル・トロ監督)、昨年は『ROMA ローマ』(
アルフォンソ・キュアロン監督)が獲得した同賞は、
アカデミー賞の行方を占う前哨戦として重要視され
ている。

バットマンに対峙する悪役、ジョーカー誕生の物語
を、ホアキン・フェニックス主演&トッド・フィリ
ップス監督で映画化。
道化師のメイクを施し、恐るべき狂気で人々を恐怖
に陥れる悪のカリスマが、いかにして誕生したのか。
原作のコミックスにはない映画オリジナルのストー
リーで描いている。
「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」とい
う母の言葉に従い、ゴッサムシティで大道芸人とし
て生きる主人公アーサー。
しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けよう
としていたはずのひとりの男が、やがて狂気あふれ
る悪人へと変貌していく。
これまでジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー
らが演じてきたジョーカーを『ザ・マスター』(ポ
ール・トーマス・アンダーソン監督)のホアキン・
フェニックスが新たに演じ、名優ロバート・デ・ニ
ーロが共演。
『ハングオーバー!』シリーズなどコメディ作品で
手腕を発揮してきたトッド・フィリップス監督(『
万引き家族』の是枝監督と同じく、もともとはドキ
ュメンタリー映画監督だった)がメガホンをとった。
(トッド・フィリップス監督、そして主役のホアキ
ン・フェニックスについては別の機会にお話したい。)

10月15日付のシネマトゥデイによれば、全米で
興行的に成功しているという。

先週末10月11日~10月13日の全米ボックスオフィス
ランキングが発表され、公開2週目の映画『ジョーカ
ー』が興行収入5,586万1,403ドル(約61億円)で首
位の座をキープした。 [シネマトゥデイ]

また、日本でも興行成績が2週連続で1位を獲得して
いる。
10月12日~13日の国内映画ランキング(全国週末興
行成績・興行通信社提供)が発表された。
大型の台風19号が列島を直撃し、各地に甚大な被害
を与えたこの3連休の週末は、3本の新作がランクイ
ンしたが、『ジョーカー』が首位を堅持。週末2日間
で動員21万7000人、興収3億3200万円を稼ぎ、2位
以下に大差をつける強さをみせた。
14日までの累計動員は135万人を突破し、興収は間
もなく20億円に到達する。 [映画.com ニュース]

普通に考えれば、大きな劇場で上映するような内容の
映画(ダークな世界を描いているお話であり、加えて
アンダー15指定)ではない。
しかし、興行的にも成功している。

ヒットする映画に共通する要因として、「時代性」✕
「普遍性」というものがある。
例えば『万引き家族』は「貧困」✕「家族(愛)」。
例えば『天気の子』は「異常気象」✕「純愛」。
そして『ジョーカー』は「格差社会」✕「愛憎」。

この物語の根底にあるもの、それは社会の「分断」。
今日の米国であれ日本であれ、下階層のものだけが一
方的に我慢を強いられ、それによって成り立つ社会の
様を言い当てている。
この世の中は弱きものだけが我慢(自己責任という名
の下に)し、「悲劇」に甘んじていると、主人公アー
サーが叫ぶ。
そして、その我慢が限界に達したときに何が起きるか
を「警告」している。

虐げられた人びとが悲劇を喜劇に変えようと決意し、
我慢をやめたときに、社会秩序はあっけなく崩壊して
ゆく。 
この映画のヒットは、そんな空気が漂っていることを
人びとが敏感に捕らえているからだ。