妹の病気見舞いで帰省した。
山の中腹にある青森空港は一面、雪に覆われていた。
その景色の中、ところどころに、ななかまどの木々の赤い実が鮮やかな色を挿していた。
空港からバスで家路に向かう。
モノトーンの世界を眺めながら、ふとマルクス主義による理想国家がなぜ、イギリスでもフランスでもなくロシアに出現したのかという話を高校生のころ先輩から聞き、妙に納得したことを思い出した。
それは雪が降った翌日、それまでの彩れらた世界から一夜にしてモノトーンの世界に変わることをロシアの人々の誰もが体感していたからだ、と。
そのイメージの共有が、昨日までの価値と世界を、ある日いっぺんに転覆させることを可能にしたのだ、と。
三日間、病院に通う道程に、幼馴染のT君が経営している菓子店がある。
その店に明かりがないのに気付き、両親に尋ねた。
答えは、数ヶ月前、倒産し、T君も自己破産したのだという。
そして、いまは消息がわからない。
帰省した折、T君とときどき話をした。
そこにはいつも、積極的にチャレンジするT君がいた。
ここ数年の間に、大手のスーパーを核とする巨大な集積商業施設が2つもでき、旧来の商店街はほとんど根こそぎ客も商圏も持っていかれているが、なんとかこの状況を打開する手だてはあると言っていたことや、数多くの経営の勉強会に出て、そこで得た方法をもとに、積極的に実践していること。
そして、地方にいることの有利さや、弱小が勝つランチェスター戦略(企業戦略の1つ.イギリスの航空工学の技術者,F. W. ランチェスターの考え出した戦力についての法則を経営戦略に応用したもの.特定分野に経営資源を集中的に投入するのをよしとする.)についても熱く語ってくれた。
その方法のほとんどは納得のいくものであるし、腑に落ちるものばかりであった。
結果、本店の他、数店舗の支店も展開するまでになっていた。
勝手な解釈を開陳する。
失敗とは、敗れることを失うことである。
なにかにチャレンジしていれば、成功も失敗もある。
いや、むしろチャレンジャーに失敗はつきものかもしれない。
だから、チャレンジすることを止めたとき失敗は顕在化する。
T君が、なぜ倒産し自己破産したのか、いまは知る術もない。
でも、チャレンジすることをあきらめず、敗れることを失なわいかぎり、人は失敗から多くのことを学び、前に進むことができる。
T君はきっと近い将来復活する。
それは確信に近い。
お客様が美味しいと言ってくれたときの顔を思い浮かべ、作ることにこだわり続けていた君のシュークリームやストロベリーケーキがまた食べたくなった。
雪に覆われた世界も春になれば、変わる。
春は必ず来る。
がんばれT君。
君のチャレンジを待っている。