安直に、このタイトルが頭に浮かびました。オスロに降りて気温12度の滑走路を歩くと、眠気が覚まされ、森が視界に入ってきて、思春期の記憶が蘇ります。北欧独特の針葉樹林が、赤と緑の装幀の上下二分冊と、その頃の記憶を呼び起こすのです。主人公は、オスロではなくハンブルグ空港に到着した機内でビートルズのこのタイトルの曲を聴き、学生時代を回顧するという小説です。
あとで知ることになりますが、この曲は特に森をうたったわけでもなく、ノルウェーの家具(Norwegian Wood)をテーマにしたとのこと。
日替わりではあったものの目指すものが常にあって、それは暫く先のことで、それとは別に目の前に目標や課題がありました。夜を徹してでも何かをこなしていた日々の回顧は、一足先に着いている同行者との待ち合わせのホテルまで続きます。決して高い建物のない景色のハイウェイは目に優しく、好きなことを好きなだけやっていたあの時分を思い出すには、十分な静寂を心に与えてくれました。結果は常に伴うけれども、直向きに前だけ見て泣いたり笑ったりしていた頃です。ろくに頭で考えず、「やってみないと、わからない。」と両親の助言にすら耳も傾けなかった日々。
ロビーで握手を済ませ、隣接するカフェでコーヒーを注文します。北欧らしさは、宿泊費がそれほど高くなくても、居心地のよいデザインで、いたるところに表現されています。生活、生きていくことそのものを楽しむ土地柄なのでしょう。バーガーキングのチーズバーガーが2,000円でも心地よいのです。
高い税金や社会保障への関心から、本題を隅に置き、現地で暮らす人にライフスタイルや普段考えていることを尋ねてみると、彼らがおかれた環境に満足して暮らしていることがわかります。ただ、その話しぶりや内容から一方で気づかされます。将来の保障や守られている環境に身を委ねているだけではないことに。その一瞬一瞬に懸けて、いまを過ごしていることが万国共通であることに。
わずか18時間の滞在は、「将来か現在か」がテーマとなりました。長い時間軸で物事を見ることも大切でしょうし、未来に向けて計画や道標をつくることも大切でしょう。でも、いまするべきことに集中することこそが、その先を創り出すということを忘れてはならないでしょう。そして、未来の不安に怯えることなく自分を信じて、目前のことに没頭できる環境づくりは、歳を重ねた僕たちが、そろそろ次の世代にむけて考え始めるべきことです。意地で選んだオープンテラスで、ダウンジャケットのジッパーを首まで上げ、凜とした空気を感じるのでした。