第31回 そうだ 京都、行こう。

東福寺
東福寺

古都へ。
仕事のみで終わらせては勿体ないと、名所を案内していただき、歩いてみました。

僕たちの世代は、「京都」と聞くと、JR東海のTVコマーシャルを思い出し、
タイトルにも掲げたキャッチコピーが頭に浮かび、
映画サウンドオブミュージックの「My Favorite Things」を口ずさんでしまうのです。

20年以上も続くこのコマーシャルは、1993年から始まっています。
ちょうどバブルが崩壊し、日本経済が一息ついたのがこの頃で、
僕は、大学を卒業し金融機関に就職するのですが、
1986年から続いたバブルの終焉に世の中が暗くなっていく中で、
自身はこれから開かれていく未来に対して希望に満ち溢れていたのを覚えています。
ある意味、ただの世間知らずの青年でした。

このときのコピーが、
「パリやロスにちょっと詳しいより、
京都にうんと詳しいほうが、かっこいいかもしれないな。」というもの。
ビジネスシーンでもプライベートでもやたらと海外出張自慢をする人たちが目立つ時代に
日本の古都の良さにも目を向けてもらおうと、
コピーライターの太田恵美さんが製作したものだそうです。

以降このCMは、失われた20年ともいわれる歳月を変わることなく紡がれていきます。
つまらなくなったと言われるテレビというメディアも悪くはないなと、
このCMの歴史を振り返ると、自然と思うのです。

実際に歩いてみて、京都は、スケールの大きさと、人の力に驚かされます。
急な崖に懸造りという手法で釘を一本も使わずに組み上げた木造建築や、
草木を全く使わず白砂敷のみで作られた庭園、
絵様と呼ばれる彫刻の装飾が施された梁で組み立てられる建造物など、
これらは、まさに人の力で創造され、そして守られてきた景色です。
まだ電気もクルマも電話もPCもない時代に、人の力で。

この20年。携帯電話が普及し、インターネットが発達、液晶テレビが常識になり、
スマートフォン全盛をむかえ、極めて急速に便利な時代になっています。
平安時代から比べれば、異常なまでに便利な世の中です。
指一本で欲しいものが手に入る時代です。

この便利な時代も人の力が創造し到来したものですが、
便利が故に不安になることもあるのです。

人が本来持っている力が、失われていっているのではないかと不安になるのです。
美しいものを美しく感じたり、自分たちの手でものを運んだり、
自らの足で長い道のりを歩いたり、意中の人に思いを伝えたり、笑ったり泣いたり。
極めて原始的な人の力が、退化していっているのではないかと不安になるのです。

「この町の過去は、君たちの未来のためにあるのだよ。」
2011年のコピーです。
震災後に太田さんが、「京都という町が未来に輝いていないといけない」と、
どうしても伝えたかったそうです。
現在がやがて歴史の一部となり、未来につながるということです。
現在や過去が次の世代に繋がる希望であることを表現しているかのようです。

不安になどと感じていないで、伝えるべきことを伝えなければならないのですね。
経験や感じたことを次の世代に伝えるのが、僕らの役割であるということです。

そのためにも、もっともっと先代の声に耳を傾けなければならないのだと、
もっともっと歴史を学ばなければならないのだと、あらためて思うのです。
先週、自らに問いかけていたことに対する回答を古都で見つけた気がしたのです。

「そうだ 京都、行こう。」
いまも過去も明日のための時間なのですね。

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