私は年に10回ほど、居酒屋を貸し切る懇談会を主宰している。集まる人数は20人から30人くらいで、集まってくるメンバーはビジネスの分野もバラバラで固定もしていない。ただ、集まる店は、ここ数年、浜町の「川治」(魚介類たっぷりの名店)を連続して使っている。このファンサイト通信の主の川村隆一さんとも川治で、諏訪孝佳さんからの紹介を受けお会いした。
この会に初めて参加された方から「いつごろから、この様な会を始められましたか?」と聞かれることが多い。それに対しては「2005年の秋以降から」と答えている。新聞折込広告業界の有志を集めての暑気払いや忘年会は、十年来、私が会場選びや呼び掛けなどを仕切ってきたが、業界を拡げた懇談会は「荒井商店」という店を知ってからのことなので2005年の秋以降である。
私が働いている折込会社が本社を市ヶ谷から築地に移転したのは2005年5月。食い気の強い私は、早速、築地周辺の気になる店探しをインターネットで調べ始め、新橋方面で2つの店舗が残った。一つは「ドンブランコ」、もう一つが「荒井商店」だ。共に気になるような店の名前だった。「ドンブランコ」は、「むかしむかし、お爺さんが山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に、そこへ大きな桃がどんぶらこどんぶらんこ」をイメージし、「荒井商店」は金物屋みたいな店名で面白かったからだ。
2005年8月過ぎ、新橋の気になる店に友人の丸山直起さんを連れて暑気払いをしに行くことになった。JR新橋駅に近い「ドンブランコ」に最初は行った。「ドンブランコ」が休みだったら「荒井商店」に行くつもりだったが「ドンブランコ」は営業しており、メキシコ料理の店で「ドン」と「ブランコ」の間に「・」を付ければ如何にもメキシコだと納得できる店だった。しかし、この店は一般的なメキシコ料理の店と違い、なんと自家製のテキーラを飲ませてくれる店でもあった。メキシコに自家農園を持ち、龍舌蘭を育て、テキーラを造っている店なんて普通は聞かない。秀逸なるものを発見した。トルティーヤやナチョスやタコスも食べ、良い気持ちで表に出たが、まだ時間が早かったので丸山さんに了解を得て「荒井商店」探しに歩き出した。
新橋の5丁目と言えばJR新橋駅と都営地下鉄大門駅の中間、御成門駅に近い所、「ドンブランコ」からユックリ歩いて7分くらいに「荒井商店」はあった。オープンが2005年4月23日のペルー料理レストランで、オープンして4ヵ月も経っていなかったことや、遅い時間で21時30分だったこともあって、店内にお客は居らず、オーナーシェフと奥さんが立っていた。丸山さんと一緒に店の中に入り、「店の名前が気になったから来た」「今まで新橋で飲んでいた」「今日はアルコールも料理も要らないが喉が渇いたので飲み物は何かありますか」と一気に宣言した。シェフも奥さんも愛想が良く、「ドンブランコ」で飲んだと言うと南米系レストランということで知っている店どうし相互に行き来していることや飲み物はインカコーラとチチャモラーダ(紫とうもろこしのジュース)がありますがどうしますか?と聞かれた。とりあえず1種類ずつを1本注文した。2人なので単純に氷の入ったグラスは2個しか出てこないのが当たり前。しかし、なんと驚いたことに、目の前に出された氷の入ったグラスは4個出てきた。瞬時で私にも、その謎が理解できた。この人たちは両方とも初めて飲む飲み物なので半分ずつ分け合って飲むだろう。もちろん、丸山さんと二人でシェアして飲んだ。暗黙のおもてなしが気に入った私たちは、次回は料理を堪能することを約束して店を出た。
8月の荒井商店との出会い以降、週に3~4回は昼も夜も通い、荒井夫婦の料理とおもてなしが気に入り、多くの人を連れて行ったり、紹介したりしているうちに荒井商店10席貸し切りや12席貸し切り、更に全席貸し切りとなっていった。ペルー料理という一際珍しい料理だったこともあり、呼び掛けに応じて意外と皆が集まってくれるので私も集めることが面白くなってきた。更に追い討ちを掛けるように「荒井商店宣伝部長」の名刺を荒井シェフが作ってくれた。遊びとは言え、これは固定客をくすぐる飲食店用究極ビジネスモデルの感じがする。もちろん、私は嬉しくなって会った人に名刺を配った。荒井商店が人気店になり、なかなか予約が入らなくなってから貸し切り懇談会の会場が川治に移行したが、今でも少ない席の予約やランチで使っている。6年が過ぎようとしているが、荒井商店も荒井夫婦も出会った当初と全く変わらず、訪れて気持ちの良い店のままである。
あとから分かったことだが、荒井商店の荒井隆宏シェフはフレンチの「オテル・ドゥ・ミクニ」で修行経験してから、更にペルーに1年間行き、2005年4月に新橋の外れに店を開いた。ペルー料理は海や山やジャングルの食材の宝庫であり、じゃがいも、とうもろこし、とうがらしなどもペルーが原産。荒井シェフの料理を食べてみてください。
あの日、氷の入ったグラスが4個、それも自然体として出てくるおもてなし、宣伝部長という肩書きの名刺、これはくすぐります。この流れが完成されて6年後にこのコーナーに繋がりました。
いかの料理。いかの中身に工夫が。
荒井オーナーシェフ
荒井商店:東京都港区新橋5-32-4 江成ビル1F 03-3432-0368