新聞折込広告の研究で一番やっかいなことは、広告の現物が無いということだ。特に1965年(昭和40年)以降の広告、一例を挙げればダイエーを筆頭としたスーパーマーケットの広告などで、それ以前は、折込広告の研究家・蒐集家である増田太次郎氏(故人)の7千点とも9千点ともある江戸時代の引札から明治・大正・昭和戦前戦中戦後の広告が奇跡的に残っており(㈱オリコミサービス所蔵)、それを頼るのだが、増田氏が亡くなってからは引き継ぐ研究家・蒐集家は居らず、日本広告学会の学者先生も一握りの方が関心を示しているのみで、実際は、どう集めたら良いかすら分からないのが現状でもある。そういう私も気になる広告を意識して保存するようになったのは10年くらい前で、年間6千枚とも7千枚とも1世帯に入ってくる広告の全てを残すことは当然無理で、ましてや、新聞販売店から配られる新聞と広告は、隣の地区では新聞は同じでも広告は一部違ったものが入ってきており、定点観測をして保存・保管するには膨大な器(スペース)が必要となってくる。
そんな危惧を抱えて悶々としているその時に、私が商業界発行の月刊誌「食品商業」にスーパーマーケットの企業比較・広告分析を連載中、ブルーチップ研究所の所長をやっておられた手塚幸男氏(1926年~)と懇意にさせていただいた。ある日、世田谷にある御宅を初めて訪問し、大先輩の見識を聞かせていただいた後に「こんなものがあるんだが・・・」と見せていただいたのが、この「ストーリーのある広告」だった。
今では大へん珍しいスーパーマーケットの「開店予告」→「社員募集」→「開店」→「盛況御礼」という一連のストーリーで広告が展開されおり、ゆとりある時代だった感じがする。42年前の1969年(昭和44年)2月から4月のことで、広告主は、現在は大手スーパーの西友(西友もアメリカのウォルマートに吸収されたが)に吸収された東北仙台の総合スーパー「エンドーチェーン」で、東京の世田谷区下北沢に新規出店したときの広告。斬新なデザインと読ませるコピーの面白さ、さらに「下北沢から徒歩97歩」を繰り返す楽しさ、開店までのストーリーが本当に素晴らしい。
東北のエンドーチェーンは、昭和30年代に、東北地方初となるスーパーマーケットを仙台市宮町にオープン。その後、店舗を拡大し、宮城県ほぼ全域に店舗を構え、仙台駅前にも駅前立地型の大型店舗を開店したが、仙台市内にダイエーやジャスコの大手チェーン(ともに1975年に仙台店開業)などが進出し、競争が激化した。さらにヨークベニマルが駐車場を備えた店舗を展開していくと、駅前立地で駐車場がなかったため客足が減少し、一時は東京都や岩手県、福島県などにあった店舗も軒並み閉鎖。1991年3月に経営の打開策で西友と業務提携し、2000年以降、エンドーチェーンは店名を徐々に「SEIYU」に変え、宮城県民に親しまれたエンドーチェーンのロゴマークは消えた。
この広告やその他30年前のイトーヨーカドーの広告、サミットストアの広告など手塚さんが所有していた貴重な広告の数々は、現在では入手困難な時代の広告は、現在、私の手元にある。
私は手塚さんから、これらの広告を基に当時の広告と現在の広告との比較分析などの研究をすることを条件に引き継ぎ、また、次世代に繋ぐ役割を担ってしまった。もっともっと「折込広告」という文化を継承していこうと思っている。
「私たちはあなたを驚かせるだけが目的ではないのです!」「社員募集」
「下北沢駅(南口)から97歩!進行中」
「パパのおこづかいを値上げしてあげてください」「近日開店!」
「下北沢駅(南口)から97歩!」
「足代を出しても足は出ません。エンドーに足をのばして下さい!」「近日開店!」
「下北沢駅(南口)から97歩!」
「発見!とびきりの話題を満載してエンドーただい今接近中!」「4月2日(水)開店」
「下北沢駅(南口)から97歩!」
「皆んなが待ち望んでいた夢のショッピングセンター誕生!」
「エンドー下北沢店 4月2日堂々開店」
「下北沢駅(南口)から97歩!」
「鳴りやまぬ拍手!魅力一新でアンコールにお応えします!」
「過日の大盛況に感謝して前にも勝る魅力商品をドッと追加しました。」
「期間あす8(火)→14(月)大盛況」
「下北沢駅(南口)から97歩!」