第5回 『もう一枚の名刺』

 私には三枚の名刺がある。一枚は折込会社の名刺、もう一枚は既にファンサイト通信にも書いた「荒井商店宣伝部長(今は営業部長の肩書き)」の名刺。そして、最後の一枚は今回、この場で紹介する「セッションハウス企画室」の名刺。

 セッションハウスなんて知らないと皆さんは言うでしょう。また、セッションハウスがコンテンポラリー・ダンスを20年も続けている「ダンスの小劇場」だと聞けば、私の身体を上から下まで眺めながら似合わないと間違いなく声を発することでしょう。私がセッションハウスの名刺を持っている訳を白状する前に、少しセッションハウスの人と歴史を書いてみよう。

 セッションハウスのある場所は東京都新宿区の神楽坂。大正時代の神楽坂界隈は花街で隆盛を誇り、今も残る花街特有の路地は日本でもここにしか無いらしい。坂沿いには瀬戸物屋・和菓子屋など和を思わせる店があり、表通りから一歩入ると静かな住宅街の中にレストランや料亭などが多く見られ、毘沙門天善国寺や若宮八幡、赤城神社など多くの寺社も散在している。そういった町並みの中にセッションハウスはある。

 セッションハウスの外観はコンクリートの打ち放しで、独特の質感を持った建築物になっており、1991年に完成した。地下の施設はダンスや演劇、音楽など100名前後の客席が可能な「小劇場」になっており、2階部分はイベントスペースとして使用できる「ギャラリー・ガーデン」。

 セッションハウスの運営は建物のオーナーであり非営利団体セッションハウス企画室代表の伊藤孝さんと、株式会社セッションハウスの社長でありダンサーであり芸術監督の伊藤直子さんのご夫婦が二人三脚でスタッフや多くのダンサーと共に20年間もダンス公演、コンサート、ワークショップ、講演会、展覧会などの多くの企画を制作し、国際的な芸術交流事業も幅広く展開してきた。これらの功績を称え2005年4月に全国税理士共栄会文化財団より「ダンサーの育成に寄与した」として地域文化賞を受賞、2009年1月には伊藤直子さんが文化庁芸術祭新人賞を受賞した。

 私がセッションハウスと実際に関係したのは1996年の2F「ギャラリー・ガーデン」がオープンした時のこと。オープンの記念企画を考えていた私にフト浮かんだのはアサヒカメラ別冊の「椎名誠さんの写真館」に掲載されていた椎名家の家族写真。「今の時代は、こんな子供の笑顔が必要だ」「この笑顔を皆に見せたい」と一念発起したのは良いが、椎名誠さんと面識があった訳でもなく、どこから手繰ろうかと思案し、アサヒカメラの編集部に行き、編集長から椎名誠事務所を紹介してもらった。突撃で椎名事務所に行き、自分の想いを詰め込んだ手紙を椎名誠さんに渡してほしいとお願いして帰ってきた。何とかなるもので、結果、写真展が実現した。その後もセッションハウスで椎名誠さん、奥さまの渡辺一枝さんとの関係は続けられており、8月5日からは同じ2F「ギャラリー・ガーデン」で「椎名誠 旅する文学館」が開催される。(~18日まで)

 セッションハウスの良さは、けっして社会的認知度が高くないコンテンポラリー・ダンス界で、1991年の創立以来、次代を担うダンサーや振付家を育てるために数多くのダンス・プログラムを設けて多くのダンサー達に継続的な「場」と「機会」を提供してきたこと。その結果、多くのダンサーたちが巣立って行った。

 伊藤直子さんの言葉を引用する。
「東京・神楽坂にダンスのための小劇場セッションハウスを作って、今年は20年目を迎えます。ダンスを通して大きく揺らぐ時代を見、たくさんの人と接しました。20歳で出会った若者が40歳になり、私は65歳になりました。年は十分にとりましたが、変わらぬ好奇心や挑戦が続く現場では年の差は関係なく、ダンスが花開きます。”てっぱんダンス”で日本中を踊らせているコンドルズ主宰の近藤良平さんは第一世代。第二、三世代と次々と受け継がれる若者たちのダンスへの情熱は20年間途切れることなく、国内外のダンスシーンに繋がっていきます。
勝ち負けで判断できないダンスの価値観を知ったのは、初めて見るダンスシアター、ピナ・バウシュの舞台です。舞台上のダンサーはまるでそこで生活しているようで、私の知る”テーマを踊る”モダンダンスと大きく異なるものでした。ピナに背中を押されてダンスという宇宙にさまよい出た人は数知れず。私もその中の一人、誰かと繋がり共有し生まれるダンスシアターに出会ったのです。ミュージカルのようなストーリーもなく、バレエのようなテクニックもないダンスシアターは、一人ひとりの記憶を包んだ個々のからだと心が支えます。生活することと同じです。
1999年、活動を「旅するダンス」と名付けました。内への旅・外への旅は作品、活動双方のコンセプトになり、かかわる全員が共有。海外へ日本の各地へとダンスを運び踊ります。生活者として社会の中で生き、ダンサーとして表現するマドモアゼル・シネマのダンサーは終電までのリハーサル、朝から仕事とハードな生活を続けています。支えるのは出会う人への思い、観客と過ごす時間への予感。今年もポーランド、ポルトガルと旅しますが、小さな物語を生きる彼女たちのからだは海外で本領を発揮、驚きを持って迎えられます。違いを認め合うことから始まる価値や交流に私たち自身が気付くときです。そうして日本人のからだを前面に踊り続けるマドモアゼル・シネマは、観客という”共存する未来”に向かって旅するのです。」

 長い引用でしたが、私が惚れ込む理由が分かっていただけたと思う。

私が「もう一枚の名刺」を持っている本当の訳は、伊藤直子さんは私の妻の姉で、伊藤孝さんは義理の兄だからです。しかし、セッションハウスの20年間の素晴らしい活動の身近にいたことは本当に幸せです。皆さんも現在進行中の20周年企画、ぜひ観に来てください。

▽セッションハウス
http://www.session-house.net/
▽創る、伝える、企画する日々ダンス漬け!伊藤直子の超日常
http://itonaoko.exblog.jp/
▽ダンスカンパニー「マドモアゼル・シネマ」のダンサー&スタッフによるブログ
http://madocinema.exblog.jp/
▽セッションハウスのスタッフによるブログ
http://fromstaff.exblog.jp/

地下ホールの「リンゴ企画」の俯瞰写真(撮影:伊藤孝さん)
リンゴ企画

2Fガーデンの展覧会「WARABE2010」の会場写真(撮影:伊藤孝さん)
WARABE2010

2件のフィードバック

  1. 鍋島 裕俊様

    初めまして高須賀優と申します。
    「もう一枚の名刺」読ませて頂きました。鍋島様の熱い思いが伝わって来ました。私はセッションハウスの事に何も知識がありませんでした。
    下調べのつもりで伺った時、丁度催しが中止だったのですが、女性スタッフ?の方に丁寧な扱いをして頂きました。感動しています。
    私は今度、9月28日から10月7日まで豊田紀雄氏の企画でセッションハウスをお借りして個展「現れる人物 旅のクラウン」を開催させて頂きます。
    どうぞよろしくお願いします。

    お時間があればお立ち寄りください。
    私の事ばかり言って申し訳ありません。

    高須賀優

    1. 高須賀様、はじめまして。ファンサイト通信管理人の川村と申します。高須賀様からのコメント、鍋島様に本日お伝えしましたことを、ご報告します。

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