えっ、アメリカで折込広告?紙のビジネスモデルが崩壊したと言われているアメリカの新聞業界で折込広告が存在し、新聞に入れなくても折込広告と同じ広告を生活者に届けるシステムが在り、この広告の枚数が増え続けているとは、現地に行って取材しなければ知り得なかった事実だ。
朝日新聞社系列の折込会社、(株)朝日オリコミは2010年2月8日から15日までの間、サンフランシスコ→ラスベガス→ロサンゼルスとアメリカ西海岸の流通施設と新聞社を視察する研修を実施した。視察の目的は、アメリカの最新小売業態と店舗プロモーションの把握、アメリカの新聞に入った折込広告の現況を理解することだ。視察先は世界一の小売業であるウォルマートのスーパーセンターを含む20の店舗と施設やロサンゼルス・タイムズの子会社で折込広告を取り扱っているカリフォルニア・コミュニティニューズ社。
アメリカの新聞業界は全国紙が少なく、ほとんどが州や都市ごとの地方紙で、アメリカ新聞協会によると新聞総数は20年間で15%も減り、2008年には1408紙で平日の発行総部数は約4800万部だった。厳しい状況の中、紙の新聞発行を止めてインターネットによるオンライン専業化を実施している新聞社も出現した。金融危機までのアメリカの新聞社の経営戦略は、紙の新聞の全記事をネットで無料公開して広告収入を期待するものだったが、リーマン・ショック以降、紙の新聞の販売と広告収入の落ち込みがオンライン版の広告収入より速く、多くの新聞社の経営は悪化した。2009年第1四半期の広告収入は28.28%減で第2四半期は更に悪化し、29.0%の減。日本では広告収入が減っても戸別宅配制度による安定した新聞販売収入がある。アメリカの広告収入の占める割合が約9割を考えると如何にアメリカの新聞経営が逼迫しているのが良く分かる。因みにアメリカの主な新聞発行部数と減少率(部数は2008年10月~2009年3月期の平均発行部数で減少率は前年同期の平均発行部数との比較)は、USA Today 2,113,725部(▲7.5%)、New York Times 1,039,031部(▲3.4%)、Los Angeles Times 723,181部(▲6.6%)。アメリカの新聞販売の方法は、契約者への戸別配達、駅などのスタンド売り、ドラッグストアや書店売り、街の新聞BOX(写真【1】)など。新聞の形態も日本のブランケット版やタブロイド版とも違っている(写真【2】)。ロサンゼルス・タイムズは朝刊紙で販売価格は平日版が75セントでセクション(※スポーツなど分野ごとに独立している)と折込広告の多い日曜版は倍の1ドル50セント。
さて、ロサンゼルス・タイムズの経営も厳しく、徹底した合理化を断行している。一例を挙げると、自社の記事の締め切り時間を繰り上げて(※記事が古くなるが)印刷し、経済紙であるウォールストリート・ジャーナルやパートナーシップを結んでいる地元カリフォルニア州周辺の50新聞社の印刷を優先受注している。こういった環境の中でカリフォルニア・コミュニティニューズ社(写真【5】)を訪問した。一般的に新聞読者数(部数)が減れば広告の到達率は低下し、新聞本紙広告同様に折込広告も減少していると思いながらビジネス・マネジャーのロン・クリーン氏の説明を聴いた。要約すると以下の内容になる。
イ) 折込広告の扱い量は1週間で6000万枚から8000万枚になる。ここ近年、増加傾向。
ロ) 折込日の多くは日曜版に入るが、広告主の希望次第では平日版にも入れる。
ハ) 1日に入れる折込広告の最大枚数はセットする機械の関係で28枚までだが、クリスマス商戦などの時期は手入れで増やすこともある(写真【6】)。
ニ) 折込広告の形状はセットする機械に入る大きさ、厚さ(冊子物)であれば全て可能。
ホ) 折込広告の印刷物の納品は折込日の8日前。
ヘ) 在庫管理ができる大きなスペースがある(写真【7】)。
ト) 折込広告の納品時から出荷時までの管理はバーコード管理で、扱い担当者も把握できる。
チ) 新聞を取っていない世帯にも広告を届けることが可能。
「イ」から「チ」までの中で特記すべき内容が「イ」「ロ」「チ」にある。「イ」の折込広告の増加傾向は、アメリカの大手クーポン処理会社のインマー社がクーポン回収枚数で2009年は33億枚と前年の26億枚から27%も大幅に増加と発表し、ほとんど(90%)のクーポンは、新聞(日曜版)に折り込まれたものだそうだ。また、アメリカの小売業売り上げベスト10の企業は折込広告を活用している(写真【3】【4】)。「ロ」の平日版の折込広告事例としては高級食品スーパーマーケットのブリストル・ファームズを挙げる。新聞のセクションでFOOD特集が毎週水曜日にあり、本紙の広告と連動して折込広告(写真【8】)を入れて相乗効果を上げている。「チ」は予期せぬ内容だった。折込広告は新聞のみに入れているものと思っていたが、新聞無購読世帯にも郵便事業を使って配布していた事実は驚愕だった。実際、部数減傾向のロサンゼルス・タイムズのみに折り込んでいたら折込事業の先行きも暗くなる。地域のセグメントも進化し、10年に一度の国勢調査データ(ヒスパニックなどの言語圏、所得額、住居形態、世帯主年齢、学区など)を基に9桁の郵便番号で地域指定を可能にしている。
今回の研修では大いなる刺激を受けた。郵便事業を使った新聞無購読世帯への広告配布モデルは、これからの折込広告の新しいモデルを考えるヒントになった。紙の新聞ビジネスモデルが崩壊したアメリカで折込広告は進化して活き続けている。
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以上は、2010年5月号の「販促会議」に掲載したものです。デジタル時代に突入した日本の折込広告が、今後どのような方向性に向って行ったら良いかを考える参考になればという想いで載せました。
【1】ロサンゼルス市内の新聞BOX
右がロサンゼルス・タイムズ紙(平日75¢、日曜日1$50¢)
【2】日曜日の新聞
色々なセクションとオリコミが挿まれており、紐かけされている
【3】2010年2月7日(日)のオリコミ
18枚、ディスカウントストアのウォルマートやターゲット、
家電量販店のベストバイ、ドラッグストアのウォルグリーンなどが入っている
【4】2010年2月14日(日)のオリコミ
20枚、百貨店のメイシーズやJCペニー、輸入雑貨のワールドマーケット、
オフィス用品のオフィスデポとオフィスマックスとスッタプレスなどが入っている
【5】カリフォルニア・コミュニティ・ニューズ社
ロサンゼルス・タイムズ社の子会社で印刷工場&オリコミ工場
【6】オリコミセット工程
納品されたオリコミを機械にセットする工程
【7】オリコミ在庫
出番を待つオリコミ(原則でオリコミ8日前に納品)
【8】新聞広告との連動
ブリストルファームズの新聞本紙広告(Foodセクション)と同日に入ったオリコミ