第22回『魂のチーズ』

 

12月最後のレッスンは、十勝さらべつチーズ工房(野矢さんファミリー)のチーズを寄せて生徒達と楽しむ予定です。

コロナ渦の最中の春、悲しい別れを経験しました。

親しい大切な人が居なくなるのは、突然悲しみの沼に足を取られてしまったような感覚で、訃報を聞いた時は、身動きが出来ず、身体中が固まり父を亡くした時と同じ、リビングのベランダの窓から天を仰ぎ大声を出して泣きました。

今年の初めから始まったコロナ渦の最中だという事も、後押しして今を身動き出来ない歯がゆさで、ちょっと混乱したように、思います。

10年来お世話になっている十勝のチーズ農家の野矢さん(正式には、大根農家と兼業でチーズ工房を営んでいます。工場責任者がお父様野矢さん)が、天国へ旅立ったという事を聞いたのは十勝在住の友人から教えてもらった、新聞のお悔やみ欄でした。

え??嘘でしょ?去年の夏に会った時は元気だったよ。

去年の7月十勝入りする際、札幌から電話をした時はいつもの元気な声で「いいよ~待ってるよ。気を付けて来てね。やすこさ~ん!俺ね、定期健診で癌が見つかってさ。ステージ4だって言うもんだから、手術もして秋田の玉川温泉で湯治もしてきたよ。そしたら病院行って再検査したら、癌細胞が消えてなくなりました!だってさ。治したよ俺!」ほっとしました。いつまでも、お元気でいて欲しいですもん。だから、元気にチーズ作りもしてるし、新しい工房も出来たから、見てってね!

初めて工房へお邪魔したのは、2013年の冬でした。

一番最初の工房は、完全お手製の工房で、元々は大根を保管していたトレーラーを改造して工房を立ち上げたわけですが、工房内はピカピカで、乳酸菌を培養するマシーンまで装備した、徹底ぶり。お話全てが、学びとなり、チーズの美味しさの答えが理解出来た訪問でした。

昨年の夏、十勝で再開した時は、いつもと変わらないエネルギッシュ全開で私達を迎えてくれたので、あの夏が最後になるなんて。お別れも、有難うだって言えてないんです。コロナ渦の最中のお別れのスタイルに、歯がゆさを感じますね。

野矢さんとのチーズの出会いは、市内の小さな北海道チーズ専門店で店長がお奨めしてくれて買った頃からスタートしました。

商品第一号の熟成ハードタイプ酪佳(らっか)を試食した時のは、イタリアのパルミジャーノにも惹けを感じない旨味に驚き、舌に完全インプットされてしまったのを記憶しています。

ショップへ幾度となく通う後、新製品(ウオッシュタイプ)を食べて、イタリアのタレッジョチーズを思い出しちゃって、どんな方が作ってるだろう会いたい。会いたい。思いは募りました。2年後2013年に、チャンスが巡ってきました。

冬場にレンタカーで、更別村まで入ったわけですが、迷いに迷い、道路の前で、立って待ってくれてた野矢さんの姿を今でも、思い出すと、寒い思いをさせてしまって、申し訳ありません!

いち消費者の私達の為に、工房の案内とチーズ作りの細かい工程まで、親切丁寧に案内をしてくれました。一番びっくりしたのは、チーズへ添加する乳酸菌まで、自家培養し製造している事でした。手間暇を惜しまず、365日毎日乾布でチーズを拭く作業を続けている事。

「やすこさん 俺ね、大根農家だけど、生まれは酪農家なんだよ。いつか酪農に恩返しがしたいってずっと思ってたから、チーズ作りを習い始めたのも、偶然なんだけど、色々なご縁が結び、乳牛への恩返しが今出来てるんだよね。だから真剣だよ。いつも。」って笑いながら、チーズ愛を私に語ってくれたのが、印象的でした。

同じ年の夏に、イタリア(トスカーナ)から恩師のジャン先生が、札幌入りする事が決まり、滅多にない機会なので、ジャン先生を旅にお誘いしました。

テーマは、北海道のイタリアを探す旅。張り切ってアテンドスケジュールを決めました。

そうだ~!野矢さんに会ってもらおう!十勝は道内でも有数の蕎麦の産地なのでジャン先生に、蕎麦打ちを経験してもらいたい。早速野矢さんへ相談したら快く引き受けてくれて、蕎麦打ちは、野矢さんが実演したのみでしたけど、打ち立ての蕎麦を、ジャン先生と味わい。工房を見学させてもらい。隣接したPizza店で、Pizzaを頬張り、イタリアと十勝の職人の交流は大成功でした。

帰りの車の中で、ジャン先生が、野矢さんの事を「彼(野矢さん」は、本物の職人だね」そうなの先生!

本気の本物同士は、意気投合し、友情が芽生えました。期待以上に愛情を注いでくれる大先輩。お蔭で、充実した旅が出来ました。

去年の夏、私の最年少の友人(19歳)をお供に、久々工房へ立ち寄りました。

彼は、将来の進路に迷っていた頃で、農と食に興味を抱いていた事も知っていたので本気のチーズと本物の職人に会えるだけでも、刺激を貰ってもらいたいな。併設されてるPizza店で席を共にし、私達の為に、出来立てのモッツアレラをご馳走してくれました。

「チーズ作りに興味があるんだったら、見学する前に、チーズの基礎だけでも勉強して来なくっちゃいけないよ」野矢さんの言葉には、厳しい中にも、本物の愛があるんです。

工房の見学は実現しなかったけど、4種のチーズが載ったPizzaの美味しさは、魅了されない人はいません。帰り際、車まで見送ってくれた野矢さんに、友人はお礼と感想をお伝えしてたのが、ちらっと聞こえました。「将来の進路に悩んでいました、って事も言ってたのかな。野矢さん笑顔で、彼の肩にポンと手を添え「いっぱい いっぱい悩みなさい!」心があるな~。本気の人は温かい。

コロナ渦の夏 奥様(みちこさん)からお手紙を頂きました。

野矢さんが、残された時間をフルに使い、有望な若いスタッフへ製造を指導出来たと思います。今後共変わりなくお引き立てお願いします。と書かれてありました。

次のバトンは、元々工房の社長でもある息子さん、そして女性スタッフが工場技術を引き継ぎ製造しています。

幼少時 野矢さんのチーズに魅了された ご近所に住んでいた女の子が、チーズ作りをフランスで学び、野矢さんの工房の門を叩きました。今後も本気のチーズ作りは続きます。

自宅で安らかに最後を過ごした野矢さんへ「自分の人生は楽しかった」と語っていたそうです。本気のチーズ職人野矢さん。有難うございました。

今年の締めくくりは、野矢さんが去年仕込んだ熟成チーズが届きます。

そして後継者へも本気のエールを!今年最後の宝箱セット(お任せ)は野矢さんチーズで腸活をテーマにしました。

魂のチーズは、記憶に残る2020年を、感動のフィナーレへ誘ってくれそうです。

本気と優しさを兼ね萎えていた大先輩。ご馳走さまです!

会えなくても、舌の記憶、本気の言葉の記憶、私の師の一人です。

 

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