第112号『お金を使って新商品を殺した話』

マーケティングはProduct、Price、Place、Promotionの4Pで構成されることは常識となっていると思います。この4Pについて今は4Cと言う考えもありますから古典的な考えとも言えるかも知れませんが、しかし、これがマーケティングの現場で正しく実践されているかと言うと話は別です。
現実はこの4つが統括されてマーケティングなされているか、は大変疑問です。
確かに、マーケティングは識者が指摘するように大量生産から多品種少量生産に、さらには個客ニーズに応えるカスタマイゼーションへと変遷を遂げています。が、企業の経営者やリーダー達の本音は売り上げまたは利益の最大化を考える経営効率至上主義です。 すなわち「儲かってなんぼ」、「金を咥えてくるやつが偉い」のです。当然、このことは営業姿勢に反映します。

営業は基本的に4PのうちPlaceを除く3Pに強く関与しがちです。そしてまた、売れない理由もプロダクトや広告を含むプロモーションに求めます。人間誰しも責任を誰かに押しつけるのが大好きですし、サラリーマンの成功術は責任をとらないことと言っても過言ではありません。
新商品が上市された場合、経営者は結果を早く求め、その声に応える営業は、冷静な判断を捨て精神主義的な掛け声のみの元気、元気となりがちです。かつての日本帝国「大本営」と同じ行動パターンです。
こうした企業のアクティビティを私も経験しました。それはある寡占化している製品市場に、参入しようとした新商品のお手伝いをした時です。

その仕事に対して行ったことは、上記の4Pの徹底チェックとそれに基づいたニッチな戦略の展開、そしてプロダクトアイデンティティに基づく流通Placeの巻き込みと顧客のリピーター化を意識したプロモーションでした。新製品投入から2年、投下した予算の少ない割には、話題づくりに効を奏したために市場の一角に見事に食い込み、とりわけ店頭でのフェイシングは確実に確保されるに至ったのです。まさに成功です。
こうした状況を見て、この企業はさらなる拡販を目指しました。その施策は、ひとつは製品の位置づけを変えたこと、それは強力メーカーのブランドと拮抗する製品性を打ち出し、同時にTVを使ったマス広告作戦を採用。結果として私たちは下ろされました。マス広告の購買力が不足していたことです。

TV広告があればモノは「売れる」と考えるもちろん営業は歓迎です。また店頭のフェイス確保も手間が要らなくなります。
そして2年後、私たちが手がけたこの商品は店頭でもはや見ることはありません。
まさに大金を投じて折角の市場を失ったのです。そしてこの失敗を甘受して漁夫の利を得たのは誰でしょうか?寡占していた企業に他なりません。

新製品が成功する率は、きわめて低いと言われています。またマーケティングが効かなくなったと言う声も聞かれます。しかし、私は、こうした失敗の理由、こればかりではありませんが、・・・を聞くにつけ、マーケティングをもっと真面目に考え、4Pでの強み・弱み、そして自社の力のほどをマーケティング戦略の展開に際してはよく検討することが必要なのではないかと思います。とりわけトップがマーケティングと販売を混同することは金の卵を産む鶏を殺すことにつながる・・・、怖さの実感です。

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