第150回『Tashkentale08に参加して・・・その3 Beyond  GDP?』

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 タシケントではふと違和感に襲われます。それはオアシスの都市でありながら、風俗やキャバクラ、カラオケ、ゲーセンなど都市固有の悪所が目につかないことに原因があるのかもしれません。

 今回のビエンナーレでは各国のカメラマンたちが参集していましたが、会食を済ませてお開きになって、とくにエネルギッシュな男性カメラマン達の口から出たのは、「9時には寐なければならないのか?」という一種の悲鳴にも近い言葉でした。そして彼らは勇んで夜の冒険に出掛けたのですが成果は乏しかったようです。

 そう、ここはかつて共産主義という理想主義が支配したところであり、いまはイスラムの倫理が人々の日常生活を律している土地なのです。そしてここの人たちは、私達とは違う日常で感じる豊かさでも価値の尺度をもっているようなのです。
例えば私たち経済至上主義の世界に住んでいると言えます。そして私たちにとっての「豊かさ」は国内総生産GDPというモノの量をベースとした指標で測られています。

 しかし、ここでの価値は宗教生活が最優先となっており、経済は二義的。むしろ家族、仲間との触れあい、人間関係などに基づいた「ココロ」への比重が高く、いわば「真面目」を重視する世界なのです。

 もちろん経済行為は重要なことは当然でしょう。しかし経済での成功や労働の成果がすべてであり、それが生きる目的となっているのではないところが、私たち「エコノミック・アニマル」と大きく違うようです。
したがって富を獲得し、それを蕩尽すること、その蕩尽振りや財力を見せびらかすなど、モノを通じての社会的な快楽装置は不要なのかもしれません。さらには経済で勝ち組、負け組を決める発想もないようです。

 ご承知のように私達の社会では、大分以前より、GDPのような金銭で換算された指標ではなく、豊かさを表す指標は別にないのか?が問われ始めてきています。金銭やモノの豊かさが、必ずしも人々の幸福とは結びつかないことが実感されて来たからでしょう。
例えば戦後一貫して一人当たりのGDPは増えているにも拘わらず「幸福度指数」SWB*は増加していないと言う研究もあります。ある「幸福の研究」調査では、経済大国米国は17位、日本は45位という結果も出ていることは耳新しいことではないでしょう。
こうした計測では、どのようなデータに基づいて行うかは未だ定見がないようです。
しかし、いずれにしろ経済至上主義は人々の幸福に資するものではないことは、今、世界に吹き荒んでいる金融危機が見事に証明してくれていると思います。
 
 今回の旅行の行程の一つに「青の都・サマルカンド」の訪問もありました。この古都からの帰途、道路沿いでリンゴを買い求めました。旅の途中なので1,2個買えば良かったので、リンゴを売る少女に、定価でいいから、数個ゆずって欲しいと交渉しました。しかし、彼女には、そのことが意味不明のようで、どうしても売っているリンゴを全部持っていって欲しいと頑なでした。私の主張に応じれば儲けは大きいのに、と思いましたが、面倒でもあり、根負けしてバケツ一杯のリンゴを持ち帰ることになりました。

 イスラムの人は商売上手として有名です。しかし、誤魔化したり不当な利益を労さずして手にすることは倫理に反するようです。後から思うに、その少女にとっては、商いすることはひとつの約束であったのでしょう。それは勤勉、正直、誠実を旨とするイスラム独特の倫理でもあるようです。「まじめな国」を示す一コマでしたが、ちょっと奇妙な体験でもありました。

 リンゴを売って稼げるお金はたかが知れていることでしょう。そんなわずかなお金が豊かさを約束してくれるとはとても思えませんが、しかし、彼女は決して不幸ではない!そんな確信を抱いたのです。また同時に幸福を他者との比較でしか感じられない日本社会の貧しさを恥じたのでした。
その所為か、多量のリンゴを抱えたクルマの私をうれしそうに見送ってくれた少女の姿は何時までも心に残り、リンゴの味と共に旅の爽やかな記憶となりました。
08年のキーワードは「変」でしたね。
09年もさらにこの「変」は過激になりそう。でもこれを機会とするマインドこそ大切、だと思っています。それには、「Beyond GDP」の発想かもしれない・・・。
今年もよろしくお願いします。

*SWB =Subjective Well-being主観的幸福度

1件のフィードバック

  1. りんごの件。中国新疆のトルファンを旅したときに、同じような経験をしました。
    不自由な言葉を操って押し問答をした挙句、目の前のトマトを、ひと山(それはバケツ一杯というより荷台一杯分でした)ではなくて、2つばかり欲しいだけなのだと伝えると、俺の商売はひと山幾ら、そんな商売はないのでくれてやるとトマトを投げてよこしたことがありましたよ。

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