第163回『百家争鳴に注目』

▼ババ抜きゲーム

今、不況のただ中にいます。
そしてこの不況が恐ろしいことは、人々の考え方を景気回復という一方向に規定し、それに沿わない考えを排除するところにあります。
例えば好景気の象徴としての都市の活性化、官民挙げて旧い建物を壊し、所を変えて高層ビルを建てて続けています。この行動を支えて来ているのは、キャッシュを生むこと。この言葉の前では、彼の水戸ご老公の印籠のごとく黙らざるを得ません。
しかし、ご宣託の通りにキャッシュを生み、利益に貢献しているのでしょうか?
六本木ヒルズの開発、お台場、汐留、防衛庁跡地のミッドタウン、さらに話題の渦中にある東京駅前や渋谷駅前、投資は回収できるのでしょうか?
少なくとも素人目には、話題性が無くなれば人気が薄れ、期待された利益も上がらぬままにゴーストタウン化していきそうな気配です。
都市や空間が消費され、ツケは誰かに回される、まるでトランプのババ抜きゲームさながらです。

▼文化のアルツハイマー型痴呆の進行

先日、欅の新緑が美しい表参道の通りを散策、森英恵ビルの前を通りました。が、このビル、どうも解体され新たなビルに生まれ変わるらしい。噂は現実となってきたようです。この界隈、なじみのビルが次々と取り壊され、高層ビルとして生まれ変わってきて久しいわけですが、そうした流れに抗すことが出来ず、森英恵ビルもまた寿命を迎えるようです。このビルが取り壊されその後どのようなビルとなるのかはわかりませんが、表参道をファッションの街として世界にデビューさせることに重要な役割を担ったこの建物が消えていくことは時代とは言え寂しい気がします。とりわけこのビルは、デザイン丹下健三氏、サインデザイン田中一光氏、その他20世紀を代表するクリエイターが世界のファッション界に日本人として初めて羽ばたいたファッションデザイナーのために誕生させた建物だけに感慨はひとしおで、森先生の無念も偲ばれます。
こうしたランドマーク的な建物が消えることは取りも直さず私たちの記憶が消し去られることでもあり私たちの暮らしを薄っぺらにすることでもありましょう。表参道では言えばかの同潤会ビルが解体され、表参道ヒルズとなり、それを皮切りに相次いで周辺のビルも取り壊され新規のビルとなり、その結果、いまやそれ以前になにが存在していたのか、どのような建物だったのか、全く不明、また人々も問うことすらなくなっています。
現在に生きるというと人聞きいいようですが、早い話、一種のアルツハイマー症じゃないか?過去がないと言うことは、自己がないこと、自分が誰なのか?はっきりとしないことでもあります。

▼欲望の墓標

話は突然変わりますが、玩具市場を駄目にしたのは、TVとそれに依存した安易なキャラクターのビジネスモデルと言われたことがありますが、都市づくりもそれに類似しているのではと思います。困ったことにキャラビジネスは玩具市場の衰退の範囲ですが、こちらは暮らしと文化を根こそぎにし、かつ拝金を至上として思考をも経済一遍当に強制してきていることでしょう。
子供が玩具を欲しがるように次から次と壊して建て、結果「朕の後は大洪水」と荒廃を残していく。困ったものです。
高層ビルの展望台から東京をご覧ください。いまや東京はまるで墓地のようです。利己的に利益と効率性を追求して生まれた高層ビル群は欲望の墓標です。
こうした笑えぬ悲惨はどうして生まれたのか?問えばいろいろな立場から、いろいろな愛矛盾する考えが述べられるでしょう。

▼百家争鳴を見直そう

しかし、いま大切なことは、より多くの人々が意見を述べ、論議を戦わし、複数の目線から都市づくりの理想を考えていくことではないでしょうか?
こう言えばきっと「もたもたしている」と「日本は世界に遅れを取る」との叱責が聞こえてきそうです。しかし、なぜ遅れる、取り残されると危機感を煽るのでしょう?
小泉政権以来、とりわけ煽りが盛んです。
煽りに乗って、いいことがありましたか?
煽るテクニックは、わかりやすさ、お耳障りによい言葉の投げかけです。
古くはナチズム、冷戦、最近ではテロとの戦い、規制緩和と改革、最近では北朝鮮脅威論など、私たちの思考を停止させる全体主義的な心の壁作り施策例には枚挙がありません。
百家争鳴、けっこう、けっこうです。
そんなに急いでどこにゆく?です。
もちろんこれはマーケティング思考全体にも言えることですが・・・。

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