第165回『中規模市場、中型媒体を考えよう!』

▼天下の秋を実感

7月になって実感するのは、戦国大名の片桐且元の「桐一葉、落ちて天下の秋を知る」名台詞に込められた感慨。例えば地下鉄の交通広告枠の空き、新聞広告のつじつま合わせなど、まさに広告の凋落を物語っているようです。そもそもこの時節、二八と言われるように出広活動の底に当たるのは通例ですが、それにしても・・・・!です。
メディアや広告代理店はたいへんだろうな?と同情する次第。
問題は、この不況が、経済動向にのみ起因していれば、景気の復活とともに再生していく期待が持てますが、現在のそれはもっと根の深い経済地殻変動に根ざした構造的な不況と予感されるだけにことはカンタンではないと思います。

▼広告媒体の役割が変わってきた?!

構造的な不況と言われる原因のひとつは国内で言えば「マスマーケットの消滅」です。
この事実はつとに予測されていたにも拘わらず「広告」媒体社側、とくにTV、新聞社ですが・・は、過去の成功体験や得手勝手の期待で、現実に直面して茫然自失、為す術を知らずの状況です。
早い話、濡れ粟の商売がダメになってきて真っ青と言うことですね。
マスマーケットが活性していた時代では、より多く知らせ、流通、生活者双方に商品・サービスの認知向上が市場戦略として有効とされていました。
併せて他より目立つか、他よりも手に入りやすいかが最大の関心事で、それには「量」が基本で、空爆のような広告投下が最適な解であり、こざかしい理屈や細かな効率計算などは歯牙にも掛けられませんでした。

▼お金を掛ければ成功した、いままでの広告モデル

周知のように広告効果は視聴率、または接触率などの到達率と頻度により測定されますが、これは広告費用と相関して図られ、極めて媒体社の儲けに直結する理屈とも言えます。
これは広告のメッセージ、すなわちクリエイティブにも当てはまります。
何故、さんま、所じょーじなど知られているタレントが相変わらず起用されるか?しかもいろいろな商品CMに無節操のように、です。
この背景には・多くの人々に、・素速く・到達し、・認知して貰いたいことに強いニーズがあることを示すものです。

▼お金万能時代の終わり

しかし、マスマーケットが消滅すると、マスメディアは使いにくい、ムダが多い広告手法となってきたのは理の当然です。こうしたことは十分理解されていたことですが、セールス側の発言が強い日本の企業では、なかなかこの「ムダ」からの脱皮を真剣に取り組むことには躊躇があったと思われます。今夏の広告の落ち込みは、やっと脱マス広告に踏ん切れた証かもしれません。
しかし、ここで誤解してはならないのは、広告の役割と広告媒体の役割とを混同してはならないと言うことです。
ネット広告がマスマーケット消滅後の有効な広告とされていますが、これは大いなる誤解。答えは「NO」です。
ネット媒体の特徴は、受動的な媒体ではなく、生活者からの積極的な働きかけが前提とされる能動的な媒体であること、またエンターティメントとして楽しめる気楽な媒体では無いということです。少なくともケイタイ、PCにしろ接触者には負荷が掛かります。
またネット広告は投下費用が安いため節約志向の現在では注目されていますが、リーチと認知や社会的な風潮、話題性づくりには全く不向きで、この点、マス広告媒体には適いません。

▼中型市場の開発と媒体の中型化が大切?

中型媒体とはマス媒体とミニ媒体との中間にある中規模市場へ到達するための媒体です。かつてトラック企業のお手伝いしていた折、トラック物流には大型・中型・小型と言う市場があると教わりました。またこうした各市場に対応した車型があり、多品種中ロット生産の効率追求と高度サービス経済の両立時代には、中型の役割が支配的となりました。この時代を先取りしたのが日野の中型トラック「レンジャー」です。
媒体でも同様のことが当て嵌りそうです。大型はマス、小型はネットかも知れません。
媒体社は、一見わかったようなことは言っていますが、実は「マーケティング」思考には無縁の組織でした。これは彼らに社会の木鐸意識が染みつき、唯我独尊の考えが血肉となっているからでしょう。
これは日本のクリエイターにも共通している点です。

▼芽生えつつある市場を育てるセグメンテーションとポジショニング

広告に限らず観光市場も不況ですが、そうした中、不況と無縁の繁盛旅館があるそうです。
それは旅館の経営者自身が鉄道模型マニアであることから、宴会場を大がかりな鉄道のジオラマをつくり、専門誌に広告し、鉄道模型マニアを呼び込み経営を活性させたのです。
鉄道模型のマニアは、総数2万人から5万人と言われ、人口10万の町でせいぜい10人といったところでしょう。
これをミニ市場とするか、中型市場とするかは別としていずれにしろ大きな量は賄えない「すきま(ニッチ)市場」です。採用されている戦略はオタクの取り込みとこだわりによるリピーター開発です。
またMACの経営が好調です。これにはMACのコーヒー戦略が新ボリュームゾーンを開拓しビジネスとして効を奏したと分析されています。思うにMACへのニーズは、気楽さと合理的な時間の消費ではないでしょうか?
マスが消滅した市場では、いま芽生える新たなニーズの発見とそれを採算に乗せる市場規模の開拓が必須です。
そのためにはセグメンテーションとポジショニングが大きな武器です。
そして媒体の役割は・広く浅くの量から・深さと確度に到達することではないでしょうか?ある意味、媒体のメディアム化には二軸の価値観から発想した「クラスメディア」の開発が必要かもしれません。
2つの事例はそのこと証明しています。お金も要るが、智恵の方がもっと必要とされる時代のスタートです。

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