第170回『オバマ・ミッシェル夫人の奔放な装い』

 選挙も終わり、鳩山新首相の噂で持ちきりのこの頃ですが、そうした中、各国の首相達の奥様、いわゆるファーストレディのファッションが一部業界すずめの話題のようです。
そして日本では、新ファーストレディ鳩山幸婦人のファッションが、好感を得ている様子。 一方、オバマ大統領夫人であるミッシェルさんのそれは賛否両論のようです。
新聞報道によれば、ナンシーレーガン元大統領婦人をホワイトハウスに招いたときの服装
Tシャツは10ドル、カーディガンは25ドでたったの35ドル、しかも露出度が多く余りにカジュアル・・・!大統領夫人とあろうものが・・・と言う上流階級のサイドからの批判です。そこには不況に苦しみ、高級ファッション復活を期待する業界にとって彼女のファッションが高級とは無縁のそれだけに、業界の意に沿わないと言う不満もあるからかもしれません。
その意味では幸夫人のファッションは「かわいくて」「おしゃれで」「彼女らしい」・・・とTPOを弁えた保守的な業界好みの優等生ファッションとも言えます。
しかし、ファッション音痴の批判を承知の上で言えば、私はオバマ大統領夫人に賛同します。

▼アンティ・エスタブリッシュというメッセージ

 それは簡単に言えば、旧来のエスタブリッシュ達が築き上げた「格差」の否定と言う強烈なメッセージ性を彼女のファッションは孕んでいると思うからです。
ホワイトハウスは、今政権までずっとWASPの牙城であり、エスタブリッシュ達のシンボルとも言えるモノでした。そこに乗り込んできたオバマ氏です。この事自体強烈なインパクトでしたし、こうした脱階層志向こそが民主主義のあるべき姿として熱狂的に受け入れられたのでは、と思います。
そして婦人もそうした志向を形にしていくリーダーの一人であることは自他共に強く認識していることでしょう。
 とくに共感を覚えるのは、彼女のファッションが着手からの主張だと言うことでメーカーやデザイナーなど作り手である「他者」から「自由」であることです。こうした権威や慣習に縛られない「自由」なファッションの実現には余程の勇気がなくては不可能ではないでしょうか?この勇気は「オバマ」を支えている人々の支援を信じているからに他ならないでしょう。
 彼女のファッションには、「貧富や肌の色に関係なく誰でもが、気楽に政治参加できる」時代の到来を告げるメッセージ性があると思います。
つまりは「ホワイトハウスなんて気楽なところよ」と言ったところでしょうか?
アメリカの伝統を重視するいわゆるエスタブリッシュを尊重する人々にはその価値観を逆撫でされる気分でないか、と思われます。

▼解放・反抗・自由

 振り返ってみると時代を革新したファッションには、それぞれ強烈なメッセージがありました。例えばC/シャネルは女性の心と身体の男からの解放を願い女性の自由、つまり男の価値観と経済力に縛られないファッションを提案し続けました。
 また世界を風靡しいまや日常化したジーンズのスタートは、あのJ/ディーンの眼差しが伝えるヤング・アト・ハートの「反抗」をメッセージとしていました。
 20世紀に受け入れられた多くの商品・・・、家電、クルマさらにはパソコンなどなどにそれぞれに変化を実現しそうな、あるいはライフ価値を変革するメッセージは備わっていたと思います。
 このメッセージという文脈で考えるとミッシェルさんのそれは大統領の「チャレンジ」を形にするひとつの試みではないでしょうか?それに比して幸夫人のファッションには上流ファッションの枠にとどまるだけのもの。センスのよさはわかるにしろ、メッセージ性には余りに乏しいと言えましょう。

▼このままでいいの?と敢えて問いたい!

 今回の選挙で人々が期待していることは、バランスや気遣い、しがらみの尊重でなく、ゼロ次元に立って現実の課題を真面目に取り組み見直す謙虚な姿勢だと思います。
 ファッションも駄目、家電も駄目、クルマも駄目、生活の安定も見えない駄目ずくしの現在の不況です。
業界でも人員整理や倒産が目立ってきています。
 その所為か、若い人々には就活ファッションが流行ですが、こうした保守的で堅実な服装をまとい「従順」を臆面なく受け入れ、それを価値とする人々を企業が即戦力として期待しているとしたら日本の先行きはまっくらです。自分の暮らしや人生を真面目に考えれば、怒りは沸いてくるはずです。
 このままで、誰かが助けてくれますか?他人の所為にして美味しい生活が保障されますか?
 もはや人生の外野にいる老人の無責任発言かもしれませんが、私たち、とりわけマーケターは暮らしの中にある不満・不安を直視し、そこからの新たな発想を求める努力と気力そして反抗の気概が大切ではないでしょうか?

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