第189回『70%の売り上げが下がった!』

▼「いつまでもあると思うな、親と金」
 いつものことながら昔の人の言葉には感心させれます。
「売れない」はもはや所与の現実です。この現実は、おそらく消費市場を構造的に変えていくものと思います。
その結果、どこにでもあった業種・業態が消えてゆくことのなるでしょう。
 先日、ある手芸問屋の社長にお目にかかりました。出会ったのは25、6年前。お会いするのは15年振りのことでした。
出会い頭、「宇田さんが関わっていた店はいまやほとんど廃業してしまいましたよ」とおっしゃいました。想定はついていたとは言え、専門家からの情報です。少なからず驚いたのは事実です。それに伴って家もこの間、売り上げはダウンし続け、いまやかつての30%の取引までダウンしていますとのことでした。

▼お古い話しで恐縮ですが・・・
 当時、私はIWS国際羊毛事務局(ウールマーク)の羊毛のプロモーションをお手伝いしておりました。その頃から羊毛は化繊に押され徐々に市場を失いつつあった時期です。
IWSでは、羊毛の品質生を再認識して貰う必要もあり、毛糸素材に肩入れし、素材市場の拡販の一環とし手編み市場に関心を持ったのです。そのためにIWSでは紡績5社およびその参加にある販売企業とでプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトの推進役のメンバーとして私が参加することになりました。
毛糸市場は、明治時代から続く古い市場ですっが、この市場もまた機械編みの時代の末期を迎えており市場の衰退は顕著でしたから、IWSの課題は困難が予測されていました。
 こうした折、私たちが提案したのが「手編み」による「毛糸市場」の活性化でした。
これは必ずしも参加企業からは歓迎されるモノではありませんでした。毛糸は素材であり、重さで販売量が計られキロ単位の取引が業界の常識だったからです。一方手編み毛糸は一玉、一巻きで取引しグラム単位でしたから、販売量は比較になりません。業界は苦い顔をしましたが、このプロジェクトの主導権は予算を中心にIWSが握っていましたから半信半疑参加していたと言うのが実際。ま、販促費の一部を負担してくれるのだから「おつきあいしまひょ」でした。

▼ニッチへの着目、ニッチの意味の把握、そしてチャレンジ
 手編みへの取り組みは、業界にとってはまったくの革新でした。
先ずは番手が中細から太番手に変ったこと、当然器具も棒針に変りました。また作品仕上がりも精緻なモノから不器用な手触り感のある野暮ったい?ものとなったのです。
 このことは当然製販ともに大きな意識改革が必須となりました。同時にこうした手作り製品にどのような価値づけを行なうか?も大きな課題でした。
そのために私たちは何をしたか?詳細は省きますが、要約すれば、当時一部で兆していた手編みマニアへの注目、またこの小さい萌芽の持つ時代性です。
またこのニッチ市場を受け入れてくれる市場戦略の探索でした。
その結果、私たちが商品化したのは・オンリーワン・ぬくもり・関係性の三位一体のパッケージでした。
いまや40代後半の女性なら誰でもが経験したと思われる手編み製品「プレゼント」のブームはこうして作られたのです。
意欲的な販売店は、毛糸の専門店であると同時にプレゼント演出も売る「新業態」店へと転身したのです。
このための私は伝道師として全国の大小毛糸店の店作り東奔西走することのなったのです。
その後、手編みブームも終焉し、頂点を極めた頃、大手広告会社へ仕事が流れたこともあり私の役割も終わったのです。
そんな因縁で、この問屋社長との関係は生まれたのです。

▼市場を再生できなかったわけ
 それから25年、かつての手編み市場は、いまや見る影もありません。なぜここまで落ち込んだのか?原因はいくつか考えられます。ひとつはIWSのような業界の革新に貢献する牽引役の不在です。もうひとつは成功体験から抜けられなかったこと、さらに重要なことは結果しか見ずに成功の背景を分析する組織的能力の育成を行なわなかったことでしょう。
時代には浮き沈みがあります。こうした変動に耐えていくのには我慢強さと新規なものを取り込んでいくマネジメントの姿勢が必要です。
70%市場が落ち込んでいる激変に「それでも潰れずにやってこられたのは、2つの経営努力にある」とご説明頂きました。
ひとつは同社は江戸時代からつづく歴史のある糸問屋であり、細々と言えども全国に知名され「糸針」商売の伝統を守り小商いを支援せねばならないと言う「使命感」。もう一つは新規の変化への「先取り」と「挑戦」でしょう。
同社では10年位前からECに着目し「楽天」のスタート時からショップを持ち「シルクフラワー」という特殊な手芸材料に特化して販売してきており、いろいろ工夫を重ねて、10年後のいまなんとか軌道にのせてこられたことだそうで、いまやさらにもう一店舗出店し売り上げ増を目指すとのことでした。
「いつにかわらない低空飛行ですが、細く長くが私たちの商売。ロングテールは伝統です」と。「色々やってみないと先は開けません」とも。
同社がこれから再び大きな飛躍を遂げるか?それは神のみぞ知るです。
しかし、手作りにしろ、手芸にしろ人の営みとして無くなったわけではありません。
市場が解体し、大手資本では採算が取れないという市場は、今後、今以上にあらゆる局面で輩出することでしょう。
そして彼らの市場撤退の共通語は「不況」「売れない」です。
でも本当は市場へのマッチングに機能不全しているだけではないか?とも思いますが・・・。
再び古い川柳で・・・「孝行のした時分には親はなし」、もじり「香香の漬けたい時分には茄子はなし」
ニーズはあっても応えられない・・?!へいお粗末様で・・・。

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