第15号『あるCRMについて』

暖冬という予測は見事裏切られ、厳しい寒さが続いています。
そんななか、上毛の川場という村落を訪れました。
スキーをやる人なら東京に近いということもあって結構おなじみの所らしく、およそ年間20万人もの人が訪れる所。しかし、わたしがお邪魔したのはスキー場とは離れたさる園芸農家です。
いろいろお話を伺った後、話題は農家経営の話になりました。
この川場村一帯にある集落は、観光農園として成り立っているそうですが、非常に面白いのはここの経営方式。ひとつは、入園料をまったく取らないこと、もうひとつは、自由に農家や畑に出入りしてもよいということです。当然、どこで収入を得るのか、畑によそ者が出入りして畑作が荒らされないのか?という疑問が湧きます。それについて質すと、ご主人曰く「本当にお客が満足し納得してくれれば採算は取れてきます。おカネを追いかけるやり方は続かない」と。ご承知のように、人を評価するに性善説のY理論と性悪説のX理論があり、それぞれ納得できるものであるために、凡人は、ついつい判断を誤らせ勝ちなのです。が、この方は人の善意を確信しての農園運営を実践してこられたのです。
当初は他地区の先達から、「商売を知らない」と悪評を浴びたそうです。しかし、入園料を取ると人は支払った分以上に元を取ろうとして、必要を越えて摘み取ったり、はては作物を食べ散らす。また、お金を払ったということでサービスを強要しがち。このことが開園しつつ判ってきたといいます。そこで「入園料なし、出入り自由」の方式の徹底化を計ったのです。この結果、来園者は、「ブランド物ではない」りんごを提示された値段で購入してくれる、また、心配の畑作への心配もまったく無くなったそうです。さらに来園者についてもリピーター率が大幅に向上しているとのことです。このY理論ベースの経営で、いわば来園者には、ここが愛着の土地となり、家庭の延長、故郷となったわけですね。
観光農園を始めて、いまや、40数年、川場村のこの辺鄙で狭い、取り立てて名物のない集落に、夏から秋に掛けて、約8万の人が訪れるほどになりました。そして、先行きが懸念される農家の将来にも、道が開けてきたとのことです。
いま、CRM(カスタマーリレーションマネジメント)について論議が出ている状況ですが、この川場村の事例は、まさに「顧客のためにすることこそ真のCRM」という単純な事実を、素直に物語ってはいないでしょうか?CRMの基本は「想い」・・・。
日が落ち始めて気温マイナス3度。凍り始めた雪道を踏みしめつつの帰路、ふと心温かくなった訪問でした。

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