第186回『VMDの復権が物語るモノ』

 最近、VMDが再び話題になってきています。このVMDとは、視覚を通して製品特性、コンセプトをプレゼンテーションしていくと言う意味で、ビジュアル・マーチャンダイジングと呼ばれるもの。およそ30年前に、不況に見舞われ危機に陥った米国の小売業を救ったと言われ、いっとき我が国でも注目された市場戦略です。しかし、これが売り場に導入されたもになので、ディスプレイと混同され結局は不消化なものになってしまったのは不幸なことでもありました。
相対的に日本の流通ではマーケティング意識が低く、マーケティングはメーカー、流通では「売り」に徹するという役割分担の考えが浸透しているのもVMDが不発の原因だったとも思われます。

▼売り場のみが真実を語る
 これが再び評価されてきた背景には、
・テレビ・新聞・ラジオ・雑誌というマス4媒体を駆使すればモノが売れた時代は終わりつつあること
・大量消費の時代は終わり、自分の尺度でモノを買うという時代になってきたこと
・ニッチ市場をいかに育成するか
・さらにはメーカーといえども「売り」に入って売りをリードしていかないければ、生き残っていけないこと、
・情報ルートが多様化し、お客さまとの接点である売り場・店頭・その他が「売り場」であるというよりは情報収集や相互の交流・ふれあいの場になってきたこと
などの情報時代の固有の市場が生まれてきたこと
などがありましょう。

▼アイデンティティはさらに希薄になる
 情報化時代の特性は、アイデンティティが希薄化していくことでもあります。
企業ブランドは、多角化、多品種化、多国籍化などにより境界が薄れています。このことは専門性への疑問を生じさせてもいます。
そのために商品として、あるいは店としてはアイデンティティを定義してとそれに連動した商品化、さらにその商品が約束する「世界」をわかりやすく、強烈に印象づける視覚的な演出が必要とされ、貴重な来店客をお客さまにするトータルなVMDが求められてきたのではないかと思います。
最近の例で見れば、こうした代表は・家具のイケア、またはアップルの売り場でしょう。さらには表参道でオープンしたナイキのショップなどが、挙げられましょう。
以上はパワーブランドの店や売り場ばかりではないか?と言うご指摘もあるかと思いますが、コモディティ商品にも必要なことでしょう。
筆者が関わっていた頃もそうでしたが、よほどのブランドロイヤルティの高いお客さまではない限り、売り場で購入予定をスイッチングするお客さまは60%近くは存在していました。
この比率はもちろん価格要因もあると思いますが、近年さらに売り場での訴求力が高まってきたことはVMD再評価につながっているようです。

▼何を約束するか?はっきりさせる。それがVMD成功の基本
 先日、ある雑誌の特集に「なぜ日本企業はI−padが創れないか?」を特集していました。
この欄にも、以前、書かせて頂きましたが、この記事の指摘は、「いまさら」で、別に耳新しいことは何もありませんでした。
言うまでもなく、人々が買うのは、「夢」です。アップルを購入する、または購入したい人は、スティーブジョブスへの「共感」と彼の夢を買うことに他なりません。
あるコピーライターは、リンゴマークが付いているだけで「欲しくなる」と言っていました。好例です。
技術的には技術大国日本のメーカーでは、いつでも創れるそうです。
本当でしょうか?大言壮語する彼らは何を見ているのでしょうか?
 Stay Foolish、Stay hungry(バカになれ、飢えに耐えよ)、と、かつてスタンフォード大学の卒業生を前に訴えた彼の「好きな物作りに情熱を掛ける」精神こそ売り物です。
 もちろん既存の規制を打ち破ってユーザーの便宜や楽しみを追求していく姿勢も若いジェネレーションやクリエイティブクラスを惹きつける魅力です。
「柳の下にドジョウは2匹いる」のかもしれませんが、2番手に甘んじ、リスク回避をするこざかしく、いじましい知恵にどれほどの共感性があるのでしょうか?
機能、デザイン、美しさ、企業理念と製品、売り場が一体となって「約束する世界」を可視化して伝えるコミュニケーション戦略、それあってこそVMDは機能するのです。

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