第44号『営業の声はほどほどに・・・』

とても残念なことですが、かつてクライアントとしてお世話になった企業のブランドが、いまや見る影もなく凋落しつつあります。
社長やご担当の方にお聞きすれば、でも収益はあがっているよ、とか、それなりに意識はしているよ、とかおっしゃることは目に見えています。
しかし、10数年前には、トップブランドであり、業界のリーダーであったこの会社が、シェアにおいてもブランド認知においても、よくて6、7位にランクダウンすることについては、何か出来なかったの?と聞きたくなります。
で、根本的な原因は何か、と愚考した次第ですが、結論としては、この会社は、販売とマーケティングのバランスを上手く採れなかったところに原因の多くはあるのではないかと思い至ったのです。

最近、ひとつのコミュニケーションツールの作成に当たっても、「営業の声を聞いて決める」と言う状況によく出会います。
販売は営業が担当ですから、一見もっともな意見です。
また、どのような製品も営業部門の支援がなければ売りに結びつかないのも事実でしょう。
だからと言って「営業」が企業から出すメッセージを決めていいのでしょうか?
とくに危険なことは営業スタッフとは、その性格上、自分の範囲での判断だけでものごとを評価しがちであること、さらに他社の評価に関しても、「隣の芝生は青い」的発想から、「ウチモオナジもの」を作って欲しいと言うことになりがちだということです。
彼らの「いいもの」は、自分のセールスパターンや好みにマッチすれば「いいもの」であり、そうでなければ「よくない」と判断しがちです。
極端に言えば自分によければよくて、会社のイメージなどどうでもよいのです。
しかも、こうした意見の根拠と言えば、すべて他社の試みや過去の情報に依拠しているわけで、新たな提案や彼らの活動に問題を起こすような「人並みを超えた」「未知な」モノは、本能的に嫌悪するものだと言ってよいでしょう。
「売れない時代」にあっても、また「売れた?時代」でも、営業が一番歓迎する定番は「価格ダウン」と「おまけ」です。
しかし、これはマーケティングやブランドに好ましい結果をもたらしているでしょうか?
私のかつてのクライアトは、まさに「営業の声」の罠に陥ったのです。

営業の声を聞くほどに、企業のブランドのコモディティ化やMe Too 戦略は進んでいきます。
これは1年、2年では判らないことですが、10年も立つとばっちりボディブローのように効いてきます。
当然のことながらコモディティ化した企業からは世間様の関心は遠退きましょう。
難しいことですが、この会社のトップやマーケティングマネジャーは、Buy me情報提供に偏せず、「売り」を否定すると言うマーケティングのもう一つの側面に踏み込む勇気がなかったかもしれません。

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