概要
10月27日(月) 15:45-17:15
「選手ブログやネットを通じたファン作りの実践方法」
(有)ファンサイト 代表取締役社長 川村隆一
2008年度 「Jリーグ広報研修会」講演録 資料
第9回 Jリーグ講演会依頼の経緯
JリーグではJ1およびJ2の広報担当者が一堂に会する年次総会を毎年開催しています。この年次総会では、単に業務連絡だけではなく、勉強会も開催されています。昨年08年の総会ではプログラムの1つとして選手のブログの有り様や、ファンとの関係はどうあるべきかについて、ファンサイトの考え方を提示する機会をいただきました。
この講演会では、弊社のメンバーで、現在、鹿島アントラーズ帯同ライターでもある田中 滋が司会進行を担当し、川村に質問するカタチで進行しました。
- 川村:
- これ以降は、弊社のメンバーで現在Jリーグ関係の仕事もしているスポーツジャーナリストの田中さんとJリーグ広報の様にも参加いただき、話を進めていきたいと思います。
- 田中:
- ご紹介に預かりました田中です。現在はJ’s Goalとエルゴラッソで鹿島担当として書かせていただいています。前半は企業寄りのお話でしたので、私はJリーグに関連付けてさんに質問したいと思います。よろしくお願いします。
- 田中:
- まず、ベーシックなことですが、そもそもファンに着目した理由をお聞かせください。
- 川村:
- 以前、起業する前の会社でアシックスのウォーキングシューズの案件があり、そのブランド展開やSPなどをしていたのがきっかけです。すべてを任されていたのですが、その直営店の中で芦屋店と小倉店の売り上げがとてもよかった。調べてみると、一人で20足から30足買って売り上げに貢献しているおばさんがいるのですね。会って聞いてみると「この靴がとてもいいから買って知り合いに配るのよ」と。またその方々は靴の知識もものすごく詳しいわけです。これは、先ほど説明した「推奨顧客」であり、その下には「優良顧客」がいるわけです。推奨顧客、優良顧客、どちらにしても「ファン」なわけです。
- 田中:
- そこから「ファン」の存在に気がついて、かつ、階層化されているということに気がついたのですね。
では、アシックスが出す「ウォーキングシューズ」という新しいジャンルの展開に関してはどのように考えられていたのですか。
- 川村:
- 既存の「ただ歩く」ための靴と「早く走る」ための靴、2種類しかない中で、アシックスという『ブランド』のもとに、「ウォーキングシューズ」という新しいジャンルを展開するために「なぜいいのか」という理屈と、「かっこいいシーンをどのように提案するか」というようなファッション性を付けなければならないと、その2つを意識した販促ツールをつくりました。
- 田中:
- いま『ブランド』という言葉が出てきました。Jリーグでも、ブランドという言葉が最近よく出てくるのですが、単刀直入に、ブランドとは何でしょうか。
- 川村:
- 一言で言えばブランドとは、「お客様との約束」だと考えています。企業はお客様に対して何を絶対に守るか。例えば安全を約束した自動車メーカーや、食の信頼を失った老舗などお客様との約束を反故にした企業が危機に瀕しています。
例えば、ブランドの象徴とされているルイヴィトンは何を約束しているか。それはどんなに壊れていても修理してくれる、そして決して値引きをしない。それを頑なに守ってきていることによってブランドが確立されます。常勝だけが必ずしもブランドの基準ではないと思います。
- 田中:
- そういう考え方は、スポーツの世界でも活かせると思うのですが。
- 川村:
- そうですね、現状のスポーツの場合は、単に「勝つ」ことだけがブランドになっているという気がしていています。「常勝」だけを約束としているのであれば、負けたらブランドの価値が低下するわけで、それは あまりにも稚拙な考えに基づいたものだと思います。
- 田中:
- スポーツの世界で、ファンが支える最高の事例としてはどのチームが挙げられますか。
- 川村:
- アメリカのNFLのフットボールチーム、グリーンベイ・パッカーズのですね。彼らは2万人の株主をもち、チケットは44シーズン完売、35年待ちしているというのです。選手もファンも一体になってチームを支えている、これが最も理想とするファンの姿だと私は思います。
- 田中:
- どうすればグリーンベイのように、ファンから「おらがチーム」として支えてもらうことができるのでしょか。
- 川村:
- 非常に難しい質問ですね。グリーンベイの場合はスポンサーだった企業が撤退後、地域の人々に支えてもらおうと株主を募集したのがはじまりだったと思います。以前、仕事で海外向けのアニュアルレポートの仕事に携わりましたが、その部数が圧倒的に多いのを見て、企業は株主で支えられているなと実感しました。スポーツのチームでも同じことが言えるのでしょう。
また、アメリカの国体クラスのバスケットボールの高校生の選手たちに会う機会があったのですが、彼らは地域によって支えられているということをよく理解していて、メディア対応も本当にしっかりとできていました。こういう風土づくりもとても大切だと思います。
- 田中:
- ロサンゼルス・レイカーズの本拠地であるステイプルセンターは賑わいが異常なほどですね。チームグッズの売れ行きやチームの本拠地の賑わいは、そのキャパシティに限らない。
- 川村:
- あそこは試合と試合のショーの設定だとか、ファンを巻き込んでの設定なども細かく計算されていますね。ファンに支えられているということを、チームがよく理解しています。
- 田中:
- これは別の例になりますが、東京の人形町という街にもファンサイトがあります。小さな店が多いのですが、そこにもブランドが確立されているように感じるのですが。
- 川村:
- 人形町界隈の店は、自分たちの間口にあった限界を知っているのだと思います。箱が大きくなりすぎて苦労しているチームはたくさんあると思うのですが、集めることだけに力を入れすぎると本来の持ち味が無くなり、逆に空中分解してしまう気がしますね。
- 田中:
- Jリーグのチームでファンサイトを立ち上げるとすれば、どのように考えればよいでしょう。
- 川村:
- まず、ファンと言える人々をシンボリックに表現するべきではないでしょうか。こうでなければファンではない、というようなマイナスの思考を持つファンではなく、プラス思考があるファンの方々をサイトに登場させて、ファンがファンを支え合いつつ、チームを支えるのが大事だということを表現することが大切です。その中継ぎをするのがコンシェルジュです。
- 田中:
- コンシェルジュの役割は誰が担うべきでしょうか?
- 川村:
- 可能であればそれは広報の人の仕事だと思います。広報マンとは企業と社会の壁の上を歩いていく立場だと思うので、どういう情報をお互いに共有すると有益なのかをコントロールしながら、スムーズなコミュニケーションの潤滑油的な役割を果たすことが求められます。
それはチームとファンにとっても同じことですから、その意味でコンシェルジュは広報の方がやるのが理想だと思いますね。
ファンという視点から見たJリーグの課題について
- 川村:
- では続いて、Jリーグのさんにも入っていただいて、ご質問にお答えさせていただきます。
- 首藤:
- よろしくお願いします。ではいままでのお話を受けて私から再度ご質問をさせていただきます。いま、Jリーグのチームには公式サイトというものがあり、そこにはさまざまなチームの情報が入っていますが、更にファンサイトを構築するメリットというのは何でしょうか。
- 川村:
- 「面と向かってここまで言ってはどうだろうか?」というような情報のラインがあると思いますが、ファンサイトをつくることでファンとの敷居を低くすることができ、こぼれ落ちている情報をファンに伝えることができると思いますし、ファンを通じてのブランド化という効果が大きいと思います。
- 首藤:
- Jリーグでは、ご存知のとおりサポーターと呼ばれる熱狂的なファンの存在がありますが、これからファンになる人とサポーターの共存は可能なのでしょうか。
- 川村:
- ここでひとつ、問題提起の意味も含めて、あるグラフを見ていただきたいと思います。皆さんは「グーグルトレンド」という機能をご存知でしょうか。ある言葉がどれだけ検索されているかを計る機能が無料で提供されています。
- 川村:
- ここでは、2004年から「Jリーグ」「プロ野球」「bjリーグ」で検索してみました。こうして見てみると、プロ野球は波がありますが、やはりかなり検索されていることがわかります。一方、Jリーグはそうした波もなく、徐々に下がっていることがわかります。Bjリーグに至っては、2005年の開幕の際に少しだけフォーカスされたに留まっています。
- 首藤:
- 確かにJリーグは、長期的に下がっているように見えますね。
- 川村:
- このグラフを見て私は、「Jリーグは、核になるサポーターの人以外は、思うほど騒いでいないのではないか」と感じました。プロ野球は、なんだかんだいっても山や谷がありますよね。
これはオリンピックなどがあったときに、プロ野球以外の人が「何か見に行ってみたい」という欲求の表れだと思うわけです。それと比べてJリーグに山や谷がないという結果は、発言する人があまり変わっていない、別の言い方をすれば新規の顧客対象になる人たちにサッカーのことを語りたいというニーズが生まれていないということなのではないかということです。
- 首藤:
- なるほど。問題があるとすれば、どこにあるのでしょうか。
- 川村:
- 言い換えれば、いまのサポーターの方たちがあまりにも強いイメージを作り上げてしまっているのではないでしょうか。その結果、サポーター以外の人たちが見てみたい、検索しよう、というような欲求を起こしにくくなっている。データとしては断言できるわけではありませんが、私の推測が正しいとすれば、この傾向はJリーグにとっては厳しい状況だと思います。
- 首藤:
- これからそうした部分について考えていくのが我々の課題でもあるわけですね。
本日はありがとうございました。
- 川村:
- ありがとうございました。