“迷走”のきっかけは制作会社との視点の違い
川村:最初に大杉さんからいただいたご依頼は、カンパニーサイトをリニューアルしたいというものでした。そこでサイトのシステムを確認したところ、機能の追加・変更の継ぎ足しが繰り返され、システム全体の構造が複雑化している状態だったのを覚えています。
大杉様:お恥ずかしいかぎりです。当時は、「思いが伝わらない」ホームページになってしまっていたことが悩みでした。サービス内容をよりわかりやすく伝えたいと悩みながら、手を替え品を替え、サイトを構築していた結果、自分ではもうコントロールがきかない状態になっていました。
川村:お客様への思いが強いからこそ、新しい機能やデザインを組み込んで複雑化してしまったのですね。しかし、これはよくあるケースでもあります。
大杉様:以前にサイト制作をお願いしていた会社と方向性についてうまくコミュニケーションがとれていなかったのも原因の一つだと思っています。
川村:どのようなすれ違いがあったのでしょうか?
大杉様:振り返ってみると、伝わらない原因は「視点」の違いでした。私としてはビジネスなのでサービスを売り込みたいという気持ちは当然あります。しかし、セールスはATEAの世界観を共有していただいたあとに発生するものだというのが私の考えです。ただ、それを制作サイドにうまく説明する言葉を持っていませんでした。
川村:つまり、サイトの制作会社としては「売る」という視点で運営を続けていたが、大杉さんとしては「世界観を共有したい」という思いやミッションを伝えたい。たしかにそれではズレが生じますね。
大杉様:実際、セールス視点での提案をいただくことが多くて、こうした仕組みにしたほうがいい、とか、こういうデザインがいい、と言われるがままに進んでしまっていました。
川村:気づいたら、いろんな方向へ拡散してしまい、もう戻れなくなっていた、と。
大杉様:そうしたサイクルを何十回と繰り返すなかで収拾がつかなくなり、またゼロから作り直そうということで、リニューアルへと踏み切ったというわけです。
川村:リニューアル前のサイトを確認した時、いろんな制作会社さんが関わってきたことが見て取れたのと同時に、大杉さんもすごく試行錯誤されてきたのだな、と切に感じました。
原点回帰できるものがあればトーンは崩れない
大杉様:初めて弊社にご足労いただいた時に、川村さんから「ブランディングとは何か」について教えていただきました。資料をお持ちいただき、本来であれば有料で伺うような内容を1時間以上にわたってお話しいただき、あらためてブランディングの深さが理解できました。
川村:覚えていてくださって光栄です。
大杉様:それに、ブランディングもマーケティングやセールスなどとの連動性がないと、会社としての個性にはならないと危機感を持っていたので、川村さんなら会社としての思いを立体的に形作ってくれると確信しました。
川村:ありがとうございます。連動性を無視してホームページを制作すると、後々ぎくしゃくしてくるんです。また、肝心の根幹が固まっていないのにテクニックだけで進めてしまっても、それもトラブルの原因になってしまうことがあります。
大杉様:サービスや方向性については今も迷うことはありますが、そんな時、立ち返る場所になっているのが、作っていただいたロゴやキャッチコピーやキービジュアルなんです。言い換えるなら、“帰る港”でしょうか。迷っていろんなことに手を出したくなっても、原点回帰できるものがあるからこそ、トーンが崩れない。
川村:100年企業の多くは、基本的に原点に立ち返るキャッチコピーやキーワードを持っています。例えば、三菱化学は三菱財閥の中興の祖である岩崎小弥太の「万物化成」という言葉をキーワードにしています。世の変化に対応し進取の気風を持って常に進んでいくという、チャレンジ精神を忘れないためのミッションを持っていますよね。
大杉様:そうしたお話しを伺うと「なるほど」と思うのですが、ATEAのキャッチコピーとしていただいた「心のカタチを整える。」は、少なくとも私には作ることができませんでした。
川村:別に私が発明したわけではありません。キャッチコピーなどは依頼主のなかに内在しているものを集約的に言語化しているので、大杉さんのなかにそうした思いがあったはずです。
大杉様:たしかに言葉を見て衝撃が走ったことを考えると、そうかもしれません。ただ、ファンサイトさんはキャッチコピーにしても、ロゴにしても、きちんと言語化して理由を説明してくれますよね。だから納得感がとても高いんです。
川村:ホームページというのは肝がないと機能やテクニック頼りになってきて、ブレていってしまいます。そういった意味で、ATEAさんのロゴをまかせていただいたのはとてもありがたかったです。
大杉様:こちらこそです。ロゴについても、なぜこのフォントなのか、なぜこの太さなのか、またなぜこのカラーに決めたのかなど、それぞれの意味を言葉で伝えていただけたのは衝撃体験でした。
川村:それが仕事なので(笑)。でも、ATEAさんの業態も、ロジックを持ってサービス内容を言語化していますよね。それと同じです。おそらくそこはファンサイトの生業と似ているような気がします。
大杉様:今言われて気づきました、たしかにそうですね。
川村:なによりリニューアルサイトを立ち上げてから後も更新していくなかで、御社の考え方がお客様にきちんと伝わっているということは、正しく言語化できているからこそです。それが御社が目指している次の姿へもつながっているのではないかと思います。
その表現は世界観からズレていないか
川村:御社のビジネスは、個人的に「何かと何かをつなぐ」ことだと思っています。見えるものと見えないものだったり、人と人だったり、人と歴史だったり。つまり、まずは御社の世界観への理解が必要であり、そこからファンとつなぐという意味ではファンサイトとの親和性も非常に高いですよね。
大杉様:そうですね。世界観を共有する方法の一つとしてメルマガやブログを発信しています。特にブログはメルマガよりも一段深いコンテンツとして充実させているのですが、反響も大きくてとてもうれしいですね。
川村:ブログを継続して発信することはとても大切です。ブログ(例えばこのファンサイト通信を20年続けている経験からみても)の一番のメリットは、ATEAという存在がどういうふうに変化していっているかということを、読者が日々定点観測的に追えるところなんですよね。
大杉様:企業としてだけでなく、人間的な部分を感じられるコンテンツになっているのも、ヒットしている理由だと感じています。
川村:現在、御社では「一般向け」「ビジネス向け」のほかに、「政治家向け」「エグゼクティブ向け」など、ユーザーによってサイトの入り口を分けるといった、ファンの階層化をスタートしています。階層化は上手に運営していくことで、個別に手厚くケアできる側面もあると思うので、現在の御社にとっては正しい方法だと思います。
大杉様:ありがとうございます。正直、階層化を進めるにあたって悩まないかといえば嘘になります。ですが、やはり弊社のコンテンツが世界観の共有からスタートすることを考えると、リピーターのお客様なのか、それとも初見の方なのか、それによってどうしても理解度の差が激しく発生してしまいます。
川村:それにプラスして、ユーザーによって求めるものがまったく違うということもありますよね。
大杉様:そうなんです。これまでは不特定多数の方向けに、内容の濃度が違う講座を準備させていただいていたのですが、初見の方とリピーターが同じ説明を受けるといった弊害が生まれるので、それを解消するために階層を設けたという経緯があります。
川村:そこでも言葉はとても大事になってきますよね。どんな言葉がいいのか、言葉をチューニングしていくためにも客観的な目線を持つ外部のブレーンと定期的な議論が必要ではないかと感じます。
大杉様:自社だけだと表現についても独りよがりになりやすいのはたしかです。現在、月1回のミーティングで忌憚のないご意見をいただけることで、いつでも基本に戻れるという安心感をいただけていることには本当に感謝しています。
川村:サイトは一度できあがってしまうと、今度はサイトを活用して「売る」ことにばかり目線がいきがちです。そうすると、自社のサービスの本質を伝えるという役割が少しおろそかになる時があるんですよね。
大杉様:そうなんですよ。サイトという装置が完成したら、次はサービスを商品として魅力的に見せていくことにどうしても注力してしまいます。それが悪いということではないのですが、マーケティングとセールスを混同しないようにする努力は常にしています。
川村:やはり、初心に帰るという意味でも、サイトで語られているひとつひとつの言葉が「心のカタチを整える。」からブレていないかを反芻してみることは必要ですね。
フォトストックは企業にとって武器になる
大杉様:以前に、会社として使う画像のフォトストックを作ることを勧めていただきました。それを学べたのも大きな収穫の一つです。
川村:ありがとうございます。例えば、写真の力をものすごく大事にしている企業の一つがパタゴニアです。パタゴニアの店内に入ると、写真のトーン&マナーがすべて統一されています。サーフィンのシーンだろうが、山登りのシーンだろうが、いかにもパタゴニアらしいシーンを切り取っている。企業メッセージが写真から真っ直ぐに伝わってきます。
大杉様:世界観を理解してもらうためには、大事なことですよね。
川村:本当に大切なことです。ATEAの世界観、トーン&マナーの基準を作ることが重要と思いフォトストックの作成をお勧めしました。
大杉様:統一感というものも感覚による部分が大きいので、最初は画像の取捨選択が難しかったのですが、今は徐々にですがわかるようになりました。一年半以上続けているとけっこうな量になってきています。
川村:フォトストックという方法論を最初に学んだのは、ヒューレット・パッカード社の仕事に携わった時でした。サイトの一部を担当していたのですが、使用できる画像が世界基準で決められているのです。
大杉様:つまり、フォトストックのものしか使ってはいけないルールなのですか?
川村:はい。ヒューレット・パッカード社のコミュニケーションとして表に出せる写真はすべてストックホルダーのなかに蓄積されていました。
大杉様:すごい! ある意味、会社としてのエネルギーそのものですね。
川村:ボーダフォン(現ソフトバンク)も同じ考え方でしたね。これはCI(コーポレートアイデンティティ)の考え方です。世界企業が情報を発信する時は、国によって自分たちの見え方が変わることをすごく嫌うんです。
大杉様:やはり画像は視覚情報として影響が大きいので、コンテンツの捉え方も大きく変わりますからね。
川村:画像はノンバーバル(非言語)コミュニケーションの一つであり、イメージを決定づける要因になります。そうした意味では、ATEAとして蓄積している画像も武器になります。ぜひ続けていただきたいですね。
大杉様:どのページ、どのサービスからお越しいただいても、世界観がブレない一貫性のあるサイトにするために、これからも続けていきたいと思っています。
川村:私達もこれまで以上にサポートさせていただきます。本日はありがとうございました。