株式会社博報堂
テーマビジネスユニットテーマ開発局 地域・観光ビジネスチーム アカウントマネージャー 野村 秀之さま(キリン・シーグラム株式会社担当) サイト名:【キリン・シーグラム株式会社:極楽クラブ】ファンサイト導入対談の第5回は、旧キリン・シーグラム株式会社「ボストンクラブ」のファンサイト『極楽クラブ』の当時ご担当の株式会社博報堂の野村さまにお話をお伺いしました。 「極楽クラブ」はメルマガ会員17万人を集め、当時、マーケティング誌・宣伝会議や、各種媒体に紹介され、話題になったファンサイトです。
— なぜファンサイトなのかを教えていただけますか?
- 野村さま:
- お客さまにウェブを提案する際、ファンサイトを提案する機会が増えています。その理由のひとつはわかりやすさです。 例えば、「ウェブサイトに来てくれたお客さまに何かしたいから」と提案を求められたら、「それはファンサイトですね」と話がつながる。難しい専門用語で煙に巻くような理論構築した提案をする必要はないのです。ウェブのテクニカルな問題は置いておいて、得意先のやりたいことを話題にできる。ファンサイトは、提案する側にもお客さまにも非常にわかりやすいものなのだと思います。 サイトに集まったユーザーは、企業やその商品に自ら近付いてきてくれたファンであると言えます。サイトを運営する企業は、これまでそのファンをどう扱うべきか悩んでいました。 ただ、まったくの無作無策という訳ではなく、なにか漠然としたアイデアはそれぞれ持っていたのだと思います。ファンサイトはそんな漠然としたアイデアにかたちを与えた。だからファンサイトを紹介すると、途端に話がわかりやすくなる。やるべきことが明確になるのだと思います。
— 極楽クラブについて教えていただけますか?
- 野村さま:
- 「極楽クラブ」の役割は、ボストンクラブという商品の楽しみ方を提供することにありました。購入者へのアフターサービスになるのかもしれませんが、これは従来の広告ではできなかった試みだと考えています。極楽クラブのケースは、メーカー(企業)としてユーザー(ファン)に近づくことができた初めての試みです。 メーカーがユーザーを認識して、そこに近付いていく、これは企業が消費者と新しい関係を結ぼうとする画期的な試みだったと自負しています。 また、ここにはメーカーがユーザーに直接商品を販売してこなかった日本市場の特殊性もひと役買っているのかもしれません。メーカー→流通→消費者という商品流通の構造の中で、企業からはユーザーのロイヤリティが見えにくくなっていた。ユーザーも、自らのロイヤリティを示すことができなかった。ファンサイトはこの溝を、既存の手法とは違ったアプローチで埋めることができたのです。
— ファンとの向き合い方はどうすればいいのでしょうか?
- 野村さま:
- ファンサイトのポイントは、企業とユーザーであるファンとの関係性にあると思います。実際に、極楽クラブの運営では、ファンの反応に後押しされるかたちでコンテンツが発展していました。 ファンは企業の思い通りに動いてくれる存在ではありません。その関係は、つかまえようとすると遠ざかる恋愛のような関係だと感じています。例えば、猪突猛進型で押しまくると必ず失敗してしまう。想いを寄せる人とあえて距離をおいて思い続ける、深い思いやりのある愛情に例えられる関係だと思います。 ただし誤解されやすいのは、ファンが熱狂的なユーザーだけを指すのだと勘違いされやすい点です。我々がファンと言うとき、それは熱狂的な車のファンのようなユーザーだけを指すのではありません。 少数の熱狂的ファンが集まるサイトもファンサイトと言えますが、物凄く詳しい人たちが集まっているために、ある程度の知識レベルに達しない人には壁が立ちはだかってしまいます。 一方、今求められているファンサイトは、ファンと商品はお互いに並んで対峙する関係を理想としています。ファンと商品が対峙するこうした向き合い方が、押しつけでない、居心地のよい関係を生みだすのです。これはファンサイトの大きな特徴です。 極楽クラブの退会率が非常に低かったという事実も、ファンとの「向き合い方」に理由があると思います。極楽クラブは17万件を越える登録者を抱えていましたが、退会率は10%以下に留まっています。これは通常約20%の半分以下です。 また極楽クラブについて、クレームや運営の大変さについてよく訊かれますが、ファンサイトはクレームの温床にはならないというのが私の答えです。企業色の濃いサイトをつくればそれがクレームの発信源になる可能性があります。 しかし、ファンと独自の向き合い方を実践するファンサイトは、ファンとの間に空気のようなサイトを作り上げます。極楽クラブでは、プレゼントキャンペーン企画だけではなく、ユーザーが自由に書き込める掲示版も運営していましたが、深刻なクレームは1件もありませんでした。不思議に思われるかもしれませんが、これは事実です。 ファンサイトというコンセプトが実現する企業とファンの関係は、企業風土や商品などさまざまな条件によって変わってきます。向き合い方にはさまざまなかたちがあるはずです。まるでブラックボックスのようなこの「向き合い方」を導き出すのがファンサイト理論なのだと思います。